ミニマルな内装が話題のカプセルホテル「ナインアワーズ(ninehours)」が21日、浅草に新店をオープンした。地上9階建てで、客室は183室。建築家・平田晃久による新店は、浅草の街並みに沿うような立体的な外観と外壁に沿った階段がなんとも特徴的だ。10月には新大阪への出店も控える同社だが、はじまりはベンチャーキャピタル出身の油井啓祐・社長が父の経営するカプセルホテルを相続したことだった。油井社長はどのような考えで独自のカプセルホテル事業を生み出したのか。
WWD:「ナインアワーズ」はどんなコンセプトで作られたのか。
油井:あらゆる都市で、自由な時間を過ごせるようなトランジットサービスを提供したいと考えている。“トランジット”というからにはあらゆる場所にホテルがなければいけないわけで、最近出店数が増えてきたことで、ようやくそのスタートラインに立った気分だ。
WWD:トランジットサービスとは具体的にどういう内容か。
油井:そもそもカプセルホテルは“行きたくて行くような場所”にはならない。もちろんそう思ってきてくれるのはありがたいが、ホテルが目的地になるべきではない。そのため、豊かな体験のために睡眠とシャワーの品質だけを研ぎ澄ませた場所を目指している。快適じゃなければトランジットである意味がないわけで、ただ物理的に寝ることができる場所でもいけない。空港なんかがまさにそうだが、トランジットをするためには飛び抜けて便利でなければいけないと思う。
WWD:ということは、出店場所にはこだわっている?
油井:移動の拠点で、多くの人が行き交う合理的な場所である必要がある。蒲田にオープンしたのは羽田空港を利用する人が前泊をするための場所になるだろうと考えたからだし、竹橋も大手町などから近く、トランジットとしては合理的な場所だった。
WWD:一方で、竹橋店のようにランステーションとして機能したり、今回の浅草店のようにカフェを併設するなど、店舗ごとの独自性も出てきたように感じる。
油井:ウーマン神田店の出店までは“素うどん”のようなものだったが、その後はオフィスデスクを置いたり、カフェを併設したり。たしかに一品がつくようになった(笑)。そもそも企画段階から建築家やデザインチームが中心におり、浅草店では浅草寺の仲見世から着想を得た設計だったり、10月にオープンする新大阪駅ではたくさんの看板をつけたりと、その土地ならではの空気感を取り込むようにしている。
WWD:「ナインアワーズ」にとって、デザインが非常に重要な要素か。
油井:われわれにとってデザインは経営そのものだ。本来経営というのは合理的なもの。デザインはその対極にあるもので、経営の中の要素として「10%くらいのデザインが入っている」とか、そういう考え方が一般的だろう。われわれはデザインが100%。経営ベースで考えたものを表層的にデザインするのではなくて、デザインそのものが経営になっていないといけない。矛盾しているようだが、だからこそこうした考えは世の中にないだろうし、正しいのかどうかもわからないが、突き詰めたいと思っている。
WWD:“世界観”を作っている、ということか。
油井:世界観は作ろうと思って作れるものではない。初期のアップル(APPLE)やナイキ(NIKE)がまさにそうだと感じるが、内在しているものを伝えることに近いだろう。それを中途半端にビジネスとしてやるのではなく、100%表現できるのならやるし、そうでないのならお店は出さない。われわれはこれまで都市の中に存在しなかったトランジットサービスを生み出すことで都市が高度化することを目指している。
WWD:ホテル自体はこれからも増やしていく計画か。
油井:もちろん計画はある。ただ、事業を拡大するだけではなく、質の向上を同時に実現したい。むしろ店舗数を増やすほどに質の向上が可能だと思っていて、従業員が増えることでコミュニケーションも増えるし、自分たちでできることも増える。例えば、店舗数が増えてシーツの洗濯を自社でできるようになれば、シーツの質を上げることだってできるかもしれない。
WWD:最後に、2020年に向けてホテル業界はバブルとも言われるが、どう感じているか。
油井:出店オファーが増えるなど、ありがたいことだと思っているが、われわれが目指すのは都市のトランジットサービス。2020年という節目は関係ないし、同業者が増えることも意識していない。われわれにしかできないことをやっていくのみだ。