2019年春夏ミラノ・コレクションで目立つのがジムで着るようなスポーツウエアだ。スポーツウエアはこれまでもランウエイに繰り返し登場してきたけれど、今シーズンは改めて気になる上に、見ていて素直に“着たいな”と思える。
代表が「スポーツマックス(SPORTMAX)」だ。名前に“スポーツ”がつくからといって、「スポーツマックス」がいつもスポーティーとは限らないが、今シーズンはその名の通りスポーティーな見た目のアイテムと、それと相性がよいネオンカラーがたくさん登場した。イメージはサーフィン。フェイクレザーのレギンスや、サンセットカラーのテクニカル・ナイロンパーカ、ウエットスーツみたいなシルエットのスパンコールのドレスなど。テーラードとタンクトップをかけ合わせたようなアイテムがユニークだ。
スポーツトレンドを語るのに欠かせないのが素材であり、今季はネオプレンやジャージー、シルクみたいに触り心地がよいナイロン、逆にナイロンみたいだが実はコットンといった素材が目立っている。2シーズン前から続くPVCも大活躍だ。「フェンディ(FENDI)」は実用性とエキゾチックなムードがキーワードで、服やバッグも外側に大きいポケットがたくさん。カラフルで柔らかいネオプレンがアクセサリーにも使われており、バッグは軽く、靴は足に優しい。
「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」の春夏もスポーティーでパワフルだ。ただし、一見するとナイロンに見える素材はシルクやコットンでラグジュアリー。ランウエイではその違いがわからなかったため、ショーの後にデザイナーのアレッサンドロ・デラクア(Alessandro Dell'aqua)に「ナイロンは使った?」と尋ねると、「ノー!一つも使ってないよ」と全否定。「見た目はスポーティーだけど実はスーパーエレガント」だという。デラクア流スポーツウエアは、実際にスポーツとして着るうんぬんではなく、スポーティーな気分を楽しむための服というわけだ。
ところでなぜ今改めてスポーツなのだろうか? 確かに、フーディーやスニーカー、キャップを合わせれば“今っぽく”なれるが、それだけではない気がする。ファッションデザイナーは女性たちの心理をくみ取り、服のデザインに反映させるものだが、スポーツウエアの台頭は“ヘルシーできれいな自分を好きでいたい”女性たちのマインドが反映されているように思う。
最近、「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」のウェブがおもしろい動画をあげていた。「あらゆるサイズの女性が抱える、ジムへの苦手意識。」と題したムービーはサイズ0から28の女性が登場し、なぜジムが嫌いになったのか、そしてそれをどう乗り越えたのかについてインタビューに答えている。その中の一人が、「体形に自信がないときにジムに乗り込むのは悪夢みたいよ。でも中に入ると五輪に出場した気分。私を見てってね」と話していたのが印象的だ。多くの女性にとって体のラインをさらけ出すジムは気後れする場所である。だけど、いざその世界に没入すれば他人の目は案外気にならないし、むしろ自分の体と丁寧に向き合う楽しさが勝ったりする。そして結果、自分のことを少し好きになり、ポジティブなマインドを手に入れる。さらに、“ジム”という言い訳があれば、街では着ないようなブラトップやスパッツも“いけて”しまう解放感もある。
他人の目を意識するのではなく、自分の体を好きになるために着る服。ランウエイにスポーツウエアが多く登場するのは、デザイナーたちがそんな女性たちのマインドを反映しているようだ。