2019年春夏パリ・コレクションが24日、開幕した。先頭を切ったのはこれまでより日程を前倒しした「ディオール(DIOR)」。パリ16区・ブローニュの森にあるロンシャン競馬場内に広さ1200平方メートルのテントを建て、中にはアリーナ席を用意。中央の広いフロアでダンサーがパフォーマンスを行う中をモデルが歩いた。
バラの花びらが降りしきる中、圧巻のダンスを披露したのはイスラエル出身のダンサーで振付師のシャロン・エアル(Sharon Eyal)率いるダンスカンパニーL-E-V。このコラボレーションはマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)「ディオール」アーティスティック・ディレクターたっての希望で実現したという。「ダンスはユニバーサルな表現方法の手段であり、コンテンポラリーダンスのジェスチャーの本質が私のイマジネーションを刺激した」とマリア・グラツィア。「ディオール」仕様のコスチュームで踊る様は体の内側からほとばしるエネルギーの塊を見るようで鳥肌が立つ。
モデルが着ている服もダンサーの衣装や、鍛えて研ぎ澄まされた体そのものを連想する。振付師が着るようなジャンプスーツから派生したドレスや、チュチュのようなスカート、メッシュを重ねて肌を透けて見せるインナー、サテンのバレエシューズなど。色は、ピンクからベージュにかけてのヌードカラーのグラデーションがポイントだ。肌の露出は多く、ダンサーでなくとも、自己管理できたしなやかな体で着たら美しいだろう。
マリア・グラツィアは現職に就任以降、フェミニズムの姿勢を前面に打ち出し、女性たちをさまざまなことから“解放”してきた。その象徴がファーストルックに着せるメッセージTシャツやニットで、前シーズンなら“C’est non, non, non et non!”と女性差別に対するNOの姿勢を言葉で示した。今季はそういったメッセージはないが、ダンスをテーマにしたことで、“自分自身を解放する”という新しい側面を見せたと言えるだろう。会場のテントは、ダンサーやダンスに関係する言葉で飾られていた。その中のひとつ、ピナ・バウシュ(Pina Bausch)の「人がどう動くかではなく、人をなにが駆り立てるのかに興味がある」という言葉がマリア・グラツィアの思いを代弁しているようだ。なお、創業デザイナーのムッシュ・ディオールもダンサー兼振付師ローラン・プティ(Roland Petit)とコラボレーションをし、コンテンポラリーダンスの軽やかさ、柔軟さをコレクションに取り入れたことがある。