モバイル決済プラットフォーム「Origami Pay」を運営するOrigamiは20日、銀行・クレジットカードとの連携拡大、セキュリティー強化に加えて、銀聯カードとのアライアンスによるアジア750万店舗への導入、オンライン決済での利用開始による決済のオムニチャネル化など大幅な事業拡大を発表した。昨今話題を集めるQR決済サービスを2016年にスタートした同社だが、あらたに66億6000万円の資金調達も実施し、ここへきて一気にサービスを拡大するフェーズに入ったようだ。日本ではまだまだキャッシュレスが浸透していないとも言われるが、同社は現状をどう見ているのか。康井(やすい)義貴Origami最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。
WWD:あらためて、キャッシュレスの定義と日本の現状とは?
康井義貴CEO(以下、康井):キャッシュレスとは現金以外の決済を指す。現在のキャッシュレス決済率は18%で、世界的にみても日本は遅れている。海外では40%くらいの国から、90%を超える国もある。ここ数年で世界的にキャッシュレス決済は加速したわけで、日本としてもオリンピックやその後に向けてキャッシュレスを推進しなければいけない。
WWD:世界ではなぜ、キャッシュレス化が進んでいるのか。
康井:スマートフォンの普及とともにキャッシュレス化が進んだ。海外では例えばキャッシュレス化のために高額紙幣を廃止したり、国が作ったQR決済の仕組みを企業が一斉に導入したり、国としての大きな方針があったことが強い。日本でも今年7月にキャッシュレス推進協議会を本格始動したわけで、まだまだ悲観すべき状況ではない。
WWD:日本でも国がキャッシュレスを推進していると。
康井:実は昨年から「クレジットカードデータ利用に係るAPI 連携に関する検討会」という名前で活動を続けてきた。かなり規模の大きい組織だ。すでに国として2025年にキャッシュレス率40%を目標に掲げている。
WWD:40%という目標は現実的なのか。
康井:もちろん組織に属する各社が努力を続けているが、この達成には起爆剤が必要だろう。
WWD:Origamiもそうだが、最近ではその起爆剤になりうるサービスとしてQR決済に注目が集まっている。QR決済の特徴とは。
康井:QRを読み取るだけで決済ができるので、タブレットなどの導入コストがかからないという簡便性はもちろんある。小売店としては手数料が比較的少ないこともメリットだろう。だが、何より特徴的なのは、インターネット決済であること。これまでの決済手段は基本的にインターネットを通さないため、利用後に顧客データを管理することはできなかった。今話題なのはQRというフォーマットだが、これはARでもBluetoothでも顔認証でも形式はなんでもいい。小売店舗としてきちんとした顧客接点を持てるようになるというのが最大の特徴だ。
WWD:一方で、日本ではまだまだ現金信仰が強いという意見もあるのでは?
康井:日本での普及が遅れているのは、決して現金信仰が強いためではない。民間企業一社がキャッシュレスを叫んだところで、普及はできないわけで、産業として大規模な普及をしなければ意味がない。いろんな会社が参入しなければ、市場は立ち上がらないわけだ。Origamiもそうだが、QR決済を提供する企業同士がキャッシュレス市場の中で競争をしても意味がない。各プレイヤーが手を取り合う必要がある。
WWD:加盟店などのプレイヤー側の現状をどう見ているか。
康井:いよいよ変わってきたと感じる。一年前には企業に提案をしてもどこか距離を感じることがあったが、ここ3〜4カ月で流れは変わった。Origamiとしても実際すでに大手企業と話をしているし、阪急阪神百貨店の全館導入といった事例も増えている。
WWD:どういう変化があったのか。
康井:ビジネス的な観点はもちろんだが、むしろ定性的な部分で、メディアのおかげもあり、企業ごとにやらなきゃいけないという意識が出てきたようだ。競合企業が取り入れているのに、やらなくてどうする、という流れだ。企業がマーケティング予算をかけて、顧客に対して「キャッシュレス決済をすれば現金より安く済む」というような経済的なインセンティブを作ることも増えた。
WWD:Origamiとしても20日に大きな発表をしたが、今が事業を拡大するタイミングか。
康井:会社としてスケールするフェーズに来ている。これまで決済サービスに加えてセキュリティーなど裏側を強化することを続けてきたが、いよいよ市場が出来上がってきたこともあり、宣伝も含めて表に出ていくフェーズだと感じている。16年5月にスタートした頃は全く相手にされないことも多かったが、これからは決済だけでなく金融市場全体を作っていきたい。