「グッチ(GUCCI)」が24日、ブランド史上初となるパリでのショーを開催した。会場はパリ9区にあるナイトクラブのテアトル・ル・パラス。サブカルやアンダーグラウンドという形容が似合う劇場型のクラブだ。ショー開始時間は19時半だがこの時期のパリはまだ空が明るく、会場前にはセレブリティー目当てのファンが大勢集まり騒然とした。
ショーはまずおどろおどろしく意味深なムービーから始まり、観る者の胸をざわつかせた。聞けば、1960年代から80年代にかけて活動した前衛的なイタリアの俳優であり演出家のレオ・デ・ベラルディニス(Leo de Berardinis)と女優のペルラ・ペラガッロ(Perla Peragallo)の作品だという。続いて、赤いじゅうたんの通路をランウエイにしてモデルが歩いた。
服はメンズもウィメンズも引き続き劇場型。中にはシンプルなハイネックニットとチェックのパンツなど“普通”のアイテムもあるが、アイウエアやヘッドピースなどインパクト大のアクセサリーを合わせることで個性的に仕上げる。劇場にふさわしく、歴史上のスターをオマージュしたアイデアが目立ち、ピンクのフェルト帽はジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)から。デニムのノースリーブジャケットは背中に米国のカントリーシンガーの第一人者ドリー・パートン(Dolly Parton)の顔がドアップで描かれている。アメリカのスターのひとり、ミッキーマウス(Mickey Mouse)の顔のハンドバッグなどキャッチーな要素も忘れない。
ショーの中盤、イタリア語のオペラの曲が途切れると、フロントローに座っていたジェーン・バーキン(Jane Birkin)が立ち上がり83年のヒット曲「バビロンの妖精」を歌った。歌いあげるとそのまま着席し曲は再びイタリア語のオペラへ。イタリアとフランスのカルチャーをつなぐ粋な演出だ。
“前衛的”は、今の「グッチ」を表現するのにぴったりな言葉だ。その印象はミラノで見てもパリで見ても、そして東京で見ても同様だが、“変わっていること”に対する懐がより深いパリでは一層しっくりと見える。
パリでのショーは68年5月のパリ学生運動がインスピレーションとなった2018年プレ・フォール・コレクションの広告ビジュアル、そして今年5月にフランス・アルルで発表された19年プレ・スプリング・コレクションに続く、フランス3部作を締めくくるものだという。今後、発表の場をパリに移すとは発表されていない。しかし、今の「グッチ」はファッションビジネスの首都、パリで見ることが自然である。招待状に同封されていたのは、ヒヤシンスやクロッカスといった花の球根。パッケージには「グッチ」が“フローラ”と呼ぶ鮮やかな花の絵が描かれている。パリに一シーズン限りの「グッチ」の花を咲かせるという意味と解釈するが、もしかしたらパリに根を張りビジネスを次のステージへ導くという意味を持つのかもしれない。そんな想像をしたくなるのが今の「グッチ」の存在感だ。