「サンローラン(SAINT LAURENT)」が挑発的で心地よいショーを見せた。今季のパリコレ最大の話題は28日にショーが予定されているエディ・スリマン(Hedi Slimane)による「セリーヌ(CELINE)」のデビューである。エディの古巣、「サンローラン」を現在任されているクリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)はそんな話題を微塵も気にしないと言わんばかりに、むしろこれぞパリ、これぞ「サンローラン」の振り切った内容でパリの王道を行った。
“これぞ「サンローラン」”を印象づけた一因は、大掛かりなショー演出にある。同ブランドは2018年春夏から3シーズン連続で、パリのシンボルであるエッフェル塔を見上げる広場にランウエイを作りショーを行っている。さらに今シーズンは、幅広いランウエイに水を浅く貼り、実物大の真っ白いヤシの木を並べて春夏のムードを演出。モデルは水を蹴散らしながら歩いた。
6月にニューヨークでメンズの単独ショーを行ったことから、パリはウィメンズの単独ショーに。ショーの後、多くの人がインスタグラムに上げていたのは、最後の水着のパートで、それだけ印象的なシーンだった。ハイレグカットの水着は肌を大胆に露出するデザインで、フェティッシュ。ともすれば下品に転ぶギリギリのところで、“美しい”へと着地させているのは、ヴァカレロ得意のカッティングの技があるからだ。加えて、着て表現するモデル、そしてショーを観る側が知っている「サンローラン」本来のイメージと合致するからだろう。リラックスやカジュアル、カワイイとは無縁。スタイルを貫くために、着る側にも努力と覚悟を強いる服。最近のショーには少ない、振り切ったその姿勢がいい。
もちろん、見せたのは水着だけではない。得意のホットパンツに合わせるスモーキングジャケットに始まり、レオパード柄のボウタイブラウス、ハートや星のモチーフのミニドレス、ナポレオンジャケット、ヒッピーシックなスタイリング、ゴールドのハイヒールブーツなど60~80年代の「サンローラン」をハイブリッドしたような構成で、いずれもロックスターのような存在感だ。
カワイイが世の中にあふれる今、その価値観とは決して相入れないヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)やギィ・ブルダン(Guy Bourdin)の写真を改めて眺めたくなった。そんな感想を残すショーだ。