「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN以下、ドリス)」の2019年春夏コレクションのテーマは、“クチュールとワークウエアのコントラスト”。ドリス・ヴァン・ノッテンが考える、“相反するものが衝突し調和する現代の様子”を表現した。
ワークウエアそのものを使用した他、登山用のロープをディテールに用い、工事現場では黄色と黒などで表される斜めストライプ柄やブルーシートのような素材など、作業着を連想させるような要素も多く採用した。一方で、こうした作業着にビーズ刺しゅうを施し、ノースリーブのロングベストやシャツには肩パッドを入れてショルダーコンシャスに見せることで、ワークウエアと相反するクチュール的な要素を随所にちりばめていった。
また今季は、リアルフェザーや羽根に見立てたプラスチック素材など、鳥を連想させる要素が多く登場したのが印象的だった。フェザーを一枚一枚縫い付けたスカートや、トップス、アクセサリーの他、ヘアスタイリストのサム・マックナイト(Sam Mcknight)が手掛けたヘアーは、羽根を必要な部分だけ切り取ってコサージュのような状態にしたものを、モデルの頭全体に飾り付けるという手の込んだものだった。マックナイトによると、「前髪を限りなく短くしたことでパンキッシュな要素を、羽根を使用することでナイーブな要素を取り入れた」と話す。これもドリスの掲げたテーマである“相反するものの衝突と調和”の形だろう。
今季最も気がかりだったのが、大企業プーチ(PUIG)の傘下に入って「ドリス」がどう変わったのか、ということ。プーチは2017年度に19億3500万ユーロ(約2554億円)を売り上げたスペインの企業で、多くのブランドのビューティ&フレグランスを手掛け、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」や「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」を擁する。大企業の傘下に入り資金力を得て活動の幅が広がる一方で、親会社の意向がクリエイションに強く影響することも多々あるだろう。しかし、今季の「ドリス」に限っては大きな方針変更は感じられず、ドリスのフィロソフィーに基づいたクリエイションが発表されたと感じた。しかし傘下に入ってまだ4カ月余り。今後このブランドがどう変化していくのか注視していきたい。
ショー当日に感じたことがある。それは「ファンが多い」ということだ。この日もあらゆるブランドがショーを開催していたため、招待客は各ブランドの服をミックスして着たり、そのブランドに合わせて着替えたりする。しかしこの日は、「ドリス」のショーでの着用率はもちろんのこと、他ブランドのショーでも「ドリス」着用者をよく見かけた。
「ドリス」はアクセサリーではなくウエアが主力で、目を引くテキスタイルが特徴だからこそ余計にそう感じるのかもしれない。しかし、多くのブランドがセレブに自社のアイテムをプレゼントしている一方で、「ドリス」はそういったことを一切行わないのがポリシーだという。それでも会場が「ドリス」の服を着た招待客で一杯になるということは、真のファンが多い証拠だ。このことからも、ドリスには大企業の傘下に入っても自身のクリエイションを貫いてほしいと強く願う。