招待状には“ミニショー”の文字。実際、ショー会場はいつもより小さく、招待客の数は半分くらいだ。今シーズンは小規模のショーを2回行った。若手デザイナーのショーのような規模感のため、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のショー独特の緊張感が和らぎ、親近感さえ感じる。トム・ウェイツ(Tom Waits)の1976年のピアノ弾き語り「トム・トラバーツ・ブルース(Tom Traubert's Blues)」も耳に優しい。
今季、川久保玲が残したメッセージは“シンプルをデザインする”。よい生地を使った、よい仕立てのスタンダードな服にハサミを入れるだけ。大きな造形の“服”にメッセージを込めて見せてきたここ数年のコレクションとは趣が異なる。
テーラードジャケットやトレンチコートをジャンプスーツにアレンジし、部分的に生地をカットすることで体の一部をのぞかせる。お腹部分をギザギザにカットし、膨れたお腹をのぞかせたルックは、卵から生物が生まれる瞬間みたいだ。膨れる体の部位は腹とは限らず、時に腰や背中へと移る。膨れた体や腕、脚はセカンドスキン風の生地に覆われ、そこにはブランド名を構成するアルファベット、数字、赤い花、新聞記事などがプリントされている。
お腹を丸く膨らませたモデルは本当の妊婦のようにも見えるがそうではなく、体の上に造形物をつけている。目的はハサミを入れた様をはっきりと見せるためであろうが、そこは「コム デ ギャルソン」、新しい価値を生み出し続けるデザイナーの姿とも重なって見える。新しい価値はきれいな丸として生まれるとも限らず、時に横に、また時にゆがんだ形に飛び出し、血のような赤い花を生み出すこともある。一人の人生のようでもあり、社会の一面のようでもあり、近くで見ると、その部位にそっと優しく触れたくなる。
今季は、ランウエイのルックと、コマーシャル商品のデザインがいつも以上に近く、お腹をカットしたジャンプスーツやプリントしたセカンドスキン風のインナーはほぼそのまま店頭に並ぶ。シンプルなだけにアイデア次第で着こなしの幅が広がる楽しみがありそうだ。もちろん、マタニティー服として着てもよいだろう。