「機械式時計のエントリーブランド」として、かつては日本でも高い周知度を誇ったスイスの時計「オリス(ORIS)」が、日本での事業を再構築している。足がかりとして、9月26日から10月1日までポップアップショップをゼロベース表参道にオープンした。同ブランドは1月に本国100%出資のオリスジャパン(東京、田中麻美子・社長)を設立し、輸入代理店のユーロパッションから国内事業を継承した。同社の田中社長は「ディスカウントショップに並んだり、ネットで並行輸入品が売られている現状がある。まずはこれを整理したい。さらに、伝えきれていなかったブランドの哲学も正しく伝える。ブランドのプレゼンスを構築したうえで、百貨店や専門店でコーナー展開したい」と述べた。ポップアップに合わせて来日したウルリッヒ・W・ヘルツォーク(Ulrich W. Herzog)=オリス グループ会長に、ジャパン社設立の狙いや日本でのビジネスビジョンを聞いた。
WWD:本社直轄型の現地法人設立は日本が初?それとも世界的な戦略なのか?
ウルリッヒ・W・ヘルツォーク=オリス グループ会長(以下、ヘルツォーク会長):米国や中国などにも本国出資の現地法人を構えている。国や地域の特性、代理店との関係性などから判断しており、全てを直轄にしたいわけではない。ビジネスが成功している国や地域では、わざわざ方法を変える必要はない。
WWD:つまり日本のビジネスは成功していない?
ヘルツォーク会長:厳しい質問だ。説明するには、少し時間をさかのぼる必要がある。クオーツショックを経験したスイス時計は80年代、疲弊していた。それでも当時、「オリス」は“その先”を見ていた。先鋭的なユーザーはもう一度、機械式時計に興味を持つことを予測したのだ。そこでポインターデイト(ダイヤル上に配された数字を専用の針で指し示し、日付を表す機能)を備えたモデルなどを大きく打ち出し、特にパリと東京でアピールした。その結果、日本をはじめ世界中で爆発的に売れ、「オリス」にとって日本は重要かつ大きなマーケットになった。
WWD:それから40年。もう一度 、80年代の「オリス」のポジションを取り戻したい?
ヘルツォーク会長:その通りだ。今のわれわれのビジネス規模からすると、今回のポップアップショップは思い切った決断だったが、日本にはそれくらいのポテンシャルがあると感じている。
WWD:ジャパン社設立もそのため?
ヘルツォーク会長:代理店に預ける場合、彼らは「オリス」だけでなく他のブランドも見なくてはならない。しかし今の時代は、さまざまなものがダイレクトにつながっている。「オリス」も日本の市場やユーザーに直結する必要があった。
WWD:現在の日本の顧客層と中心価格帯は?
ヘルツォーク会長:顧客層は50代以上で、中心価格帯は30万円前後だ。これを80年代のように、スタイリッシュな30~40代のビジネス層にしていきたい。広告戦略も新聞がメーンだったが、デジタルを使い多角的に行いたい。まずは周知回復。今回のようなポップアップショップやイベントが効果的だと考える。
WWD:具体的にどんなモデルを打ち出す?
ヘルツォーク会長:アップデートしたポインターデイトをアピールしたい。「オリス」の象徴であるレッドローターを搭載したムーブメントの改良はもちろん、ダイヤルの色をピジョンブルーにして視認性をキープしたままファッショナブルにしている。風防もプレキシガラス(透明のアクリル)から、ドーム状の形状はそのままにサファイアクリスタルに変更している。もちろんモダンなモデルもリリースするが、ベゼルのデザインやダイヤルのフォントなどはアーカイブにインスパイアされているのが特徴だ。
WWD:「オリス」のアイデンティティーとは?
ヘルツォーク会長:3つある。1つ目は、自動巻きを中心に全ての商品が機械式であること。もちろん100%スイス製だ。1985年に、まず日本流通分を全て機械式にした。その後、90年には全世界で実現した。2つ目は技術革新。3時位置のノンリニアパワーリザーブインジケーター(10日間分の動力残量を可視化する仕様)をはじめ、1年に1つの特許を取ることを目標にしている。3つ目はコングロマリットに属さない独立メゾンであること。これにより信念に基づいてアクションできる。
WWD:日本では高級時計が売れている。「オリス」は、この波にどう乗る?
ヘルツォーク会長:いい時計を持ちたいというマインドは皆にあり、それに応えたい。高品質で適正価格の機械式時計を提供したい。
WWD:今回はポップアップだったが実店舗の出店計画は?
ヘルツォーク会長:縁やタイミングにもよるが、まずは表参道エリアを中心とした東京に、次に大阪に作りたい。