「バレンシアガ(BALENCIAGA)」がまた時代の一歩先を行った。自身がリードしてきたストリートスタイルから一足抜け出し、エレガントやグラマーなスタイルに力を入れている。
前半は、先シーズン発表した“3Dテーラリング”のシリーズで、モデルの体を3Dスキャンしたデータを基に型を作り、圧着して成型。80年代調のパワーショルダーのコートドレスやスーツの生地はデニム、レザー、ピンストライプのウール、フェイクファーとバリエーションが増えている。
アーティスティック・ディレクターのデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)は「バレンシアガ」でデビューして以来、オートクチュールメゾンとしてのDNAを引き継ぎ発展させてきたが、今季はさらにその意識が高い。体から浮かび上がる筒状のキャミソールドレスは、生地の上辺とストラップにボーンを使用している。これは体と布の間の空間を大切にしていた創業デザイナー、クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balanciaga)のポリシーを現代流に再解釈したもの。横から見るとアルファベットの“C”に見えることから名づけられたシルエット“Cカーブ”は、シルクのシャツとデニムのキックスカートなどに取り入れられている。
特筆すべきは若い世代を意識したジャケットやセットアップの強化だ。ショーの後デムナはテーラリングについて、「『バレンシアガ』の顧客は若い世代が多い。テーラリングを普段は着ない彼らに着てもらうためにジョギングスーツのような素材を使ったり、シャツを必要としないジャケットを用意したりした」と話している。ジャケットは確かに触るとジャージーのように柔らかく、肩パッドが入っていないからカーディガン感覚で着ることができる。「最近は、エレガンスやグラマーがタブーのような感じだけれど、自分なりに現代に合うように再解釈してアクセシブルにした」と語っている。
圧巻の会場演出は、デムナがアートバーゼルで出会ったカナダ人ビジュアル・アーティスト、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)との協業で実現した。「電脳の中にいるかのような体験ができる空間を作りたかった」とデムナが話す演出は、ガランとした空間にLEDパネルのトンネルを作り、床も壁も天井も映像ですっぽりと覆った。ショーが始まる前は水滴と水の波紋の映像が流れてまるで水の中にいるような感覚となり、ショーが始まるとコンピューター回線の中に吸い込まれたような映像がダイナミックに、そして滑らかに流れ続けた。発表した服が映像とすべてリンクしているわけではないが、今、時代の一歩先を行く「バレンシアガ」らしい世界だ。