2011年3月にスタートしたクラウドファンディング「レディーフォー(Readyfor)」が10月、有力ベンチャーキャピタル(VC)グロービス・キャピタル・パートナーズや孫正義の弟で有名VC投資家の孫泰蔵氏率いるミスルトウ(MISLETOE)、石川康晴ストライプインターナショナル社長、小泉文明メルカリ社長らから合計5億3000万円の資金調達を実施した。
これまで9000件以上の案件を掲載し、約50万人から70億円以上を集めてきた同社だが、自社の資金調達はこれが初めて。調達に合わせてグロービス・キャピタル・パートナーズの今野穣氏が社外取締役に就任、孫氏や石川社長、小泉社長、東京大学大学院の松尾豊・教授らもアドバイザーに就任した。資金調達で目指す未来について、米良はるかREADYFOR最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。
WWD:あらためて「レディーフォー」を立ち上げた経緯とは?
米良はるかREADYFOR CEO(以下、米良):学生時代に「ナイキ(NIKE)」でマーケティングのインターンをさせてもらっていたんですが、インフルエンサーにギフティングをしても、仕組みがデジタル化されていないために、効果が可視化できないことも多く、悩ましく思っていました。そんな時、東京大学大学院の松尾(豊)さんが研究室を作ったタイミングで、私は慶應の学部生だったんですが、共同研究室に所属していました。ここでテクノロジーを学んでいるうちに、これからはテクノロジーがこうした状況を変えていくんじゃないかと感じてワクワクしたんです。当時研究室では「あの人検索SPYSEE」という人物検索サービスを開発していて、インターネットを使えば、有名人じゃなくても、世界中の誰もがスポットライトを浴びることができるんだと思いました。
そんな時に、パラリンピックのスキー日本代表の監督にお会いして、彼らは実力があるにもかかわらず資金不足のために困っているという話を聞きました。お金がないために彼らがチャンピオンになれないのは悲しいと思い、100~1000円の寄付を集められるサイトを作り、資金を集めて彼らに提供したんです。その後大学院に進学して、アメリカに留学したんですが、向こうではまさにクラウドファンディングのような仕組みが出始めていたので、これはメーンストリームになると確信しました。それが原型となってサービスをスタートしたという流れなんですが、当時は感情が動いたことをひたすらやっていただけで、今振り返るとこうしてストーリーになっているだけなのかもしれません(笑)。
WWD:当時、日本にはクラウドファンディングがなかった?
米良:なかったですね。だから少しでも早くやらなきゃと思いました。サービスを作ったのが11年で、14年に法人化しました。
WWD:サービス開始から7年を経て、現状をどう見ていますか。
米良:法人化した時点では社員が8人でしたが、今は80人を超えるくらいまで成長しました。当時はセミナーなんかでも「クラウドファンディングとは」という資料を必ず用意するくらい、サービスが浸透していなかったんです。クラウドファンディングの説明が必要なくなったのはここ数年のことで、ようやく市民権を得たのかなと感じています。
WWD:なぜ、ここまで広まったのでしょうか。
米良:急に有名になったわけではなくて、少しずつ広まったんです。定期的に話題となる案件も多く、「クラウドファンディング」というキーワードが社会から消えることなく続いたおかげだと思います。
WWD:一方で、競合も増えました。
米良:でも、それは市場を作っていくために必要なことだし、各プレーヤーがそれぞれの畑を広げているような印象です。むしろ、私としては市場が成熟してきた印象で。一時期「クラウドファンド=お金が集まるプラットフォーム」という考えから大手企業の参入が相次いだんですが、クラウドファンドってただのプラットフォームではなくて、利用者をしっかりサポートして調達を成功させるためのノウハウが必要なんです。私たちは成果報酬型のビジネスモデルなので、目標額を達成できなければ、ビジネスとして成り立ちません。「レディーフォー」では案件ごとに担当のキュレーターがつくことで、平均30%といわれる案件の達成率を75%にまで上げることができました。
WWD:それはすごい。何が強みなのでしょうか。
米良:調達のためのノウハウが溜まってきたことで、成功させるメソッドが確立できたことだと思います。クラウドファンディングは企業のテストマーケティング的な側面もあるのですが、それ以上に、私たちは必要な場所にお金を流すための仕組みだと考えています。資金を調達することがとても決断力を要するということは、今回初めて自分たちが資金調達をして感じましたが、誰もが資金調達の手段がないことを理由に、夢を諦めてほしくないなと。実は当社のプロジェクトにはアイテムだけでなくて、地方活性化とか、町おこしとか、NPO案件とか、ストーリーを応援するという類のものが多いんです。お金を増やすことができるとわかっているところに投資をするのが普通ですが、お金が増える原理がないところにも別のルールを持ち込むことで、新たなお金の流れを作りたいんです。
WWD:「お金の流れを変える」というのは規模の大きい話ですね。
米良:起業時に既存の金融機関から融資を受けようと思うと、どれだけアイデアがあっても堅実な収益化のめどがつかなければ、なかなか出資をしてくれないんです。例えば、将来どのような効果が得られるかが不明瞭な創薬の研究など、大きなイノベーションの可能性を秘めているけれど、収益化が見えないからお金が回らないといったこともあるんです。明確なお金を生み出せないところにお金が回らないというのは健全じゃないなと。だから、既存の資本主義に何らかのメカニズムを加えることで、お金をうまく循環させ、社会を継続させることを目指したいんです。
WWD:今回の資金調達の背景には、そうした思いがあるわけですね。
米良:はい。会社としては黒字成長を続けていますし、今回の調達も緊急性が高いわけではありませんでした。ただ、17年に病気になって会社を休むことになり、私たちが社会に果たす役割をあらためて考える機会にもなったんですが、これからチームを信じて走り続けるためにはここで経営を強化したかった。これからのお金の新しい仕組みを作るための新規事業も含めて、調達をするなら今だと思いました。
WWD:小泉さん、石川さんらはどのような思いで個人出資をしてくれたのですか。
米良:小泉さんには昔からお世話になっていて、悩み相談などもさせてもらっていたので、あれだけの大きな組織を作り上げた小泉さんの知見が必要でした。石川さんも同様によくしていただいて、仕事復帰したタイミングで食事にお誘いいただいて。いろいろと相談をしていました。お金はもちろんですが、私たちのチャレンジに共感してくださった投資家の皆さまがチームに加わっていただいたことが何より大きかったですね。
WWD:テクノロジーの進化とともに、アパレル市場でも変わってきたと感じる点はありますか。
米良:人々はものを買うときに、どんな職人さんが作ったとか、そんなストーリーを求めていると感じています。最近ではカスタムメードのアイテムも増えてきましたが、自分のアイデアが少しでも反映されていたり、プロダクトに関与できるものって愛着がわくし、印象に残りやすいですよね。洋服は毎日の気分を決めるものだからこそ、そうしたストーリーが重要だと思うんです。
WWD:規模の小さなブランドでもチャンスがあると思いますか?
米良:誰もが同じものを着るのではなく、自分がストーリーを語れるものを身に着けるようになっていくと思います。マスプロダクションではないけれど、コアなファンがいて、自分もアイデアを出して一緒に成長していくというか、高級なものじゃなくても、自分のことのように語れるかどうか。そういったブランドをクラウドファンディングでサポートできるし、テクノロジーによって、そんなお金の流れを生みたいなと思うんです。
WWD:一方で、誰でも資金を集められる、資金調達のハードルが下がることにデメリットはないんでしょうか。
米良:私は、それでいいんじゃないかと思っていて。最初から覚悟がある人ってそんなにいないんですよ。とりあえず始めたらファンがついて、ちゃんとブランドにしてみようとか。失敗してもいいというと聞こえは悪いですが、ちょっとやってみることはできると思うんですね。創業時にきちんと融資を受けたらやめたくてもやめられなかったりするけれど、本来まずは挑戦してみてその先に事業化を考えてもいいわけじゃないですか。もちろんクラウドファンディングをはじめる際には2度の審査があって、チャレンジを応援しつつも実現性は私たちがきちんと審査しています。でも、今の日本では何かを始める時のハードルが高すぎるし、誰でも人生そんなに好きなものを簡単に見つけられるわけではないので、もっと軽く考えてもいいんじゃないでしょうか。