カナダ発のEC構築サービス「ショッピファイ(Shopify)」が9月29〜30日、日本で初となるオフラインでのポップアップイベントを表参道の「COMMUNE 2ND」で開催した。同期間中には決められた時間・場所(ジオフェンス)でしか商品が閲覧・購入できない同社のアプリ「フレンジー(Frenzy)」を活用し、「ア ベイシング エイプ(R)(A BATHING APE(R))」の新商品発売イベントも実施。今後もオフラインでのイベントを予定しており、日本での本格的な認知度向上とさらなる顧客獲得を目指す計画だ。
「ショッピファイ」は2004年に創業。現在は流通総額9兆円、時価総額130億ドル(約1兆4500億円)。世界175カ国で60万店舗が活用する世界最大のECプラットフォームだ。日本法人は17年に設立されたばかりだが、すでに個人事業主から大企業まで数千を超えるクライアントを獲得しており、“EC業界の黒船”との呼び声も高い。「ショッピファイ」とはどんなサービスで、何が強みなのか。日本法人を設立したマーク・ワング(Mark Wang)=カントリーマネジャーに話を聞いた。
WWD:創業10年以上を経て、グローバルでは世界最大のECプラットフォームとなった「ショッピファイ」だが、なぜ日本進出を決めたのか。
マーク・ワング=カントリーマネジャー(以下、マーク):日本はとても面白い市場。もちろん、国によって市場が異なるためどんな国でもローカライズが必要だが、英語以外の管理画面を作ったのは実はこれが初めてだった。これは大きなステップだ。日本にはいいプロダクトや企業がたくさんあるし、今後オリンピックに向かってどんどんグローバル化をしていて、「ショッピファイ」としても投資すべきチャレンジングな市場だと感じた。
WWD:具体的にはどのあたりにローカライズの必要があったのか。
マーク:言語が一番だが、販売・購入手法が他の国とは全く異なる。例えば、英語圏ではクレジット決済率が80〜90%くらいなのに対して、日本では50〜60%程度。それ以外に最近導入したばかりのキャリア決済をはじめ、後払い、モバイルペイメントなど、たくさんの決済方法がある。発送にも数多くの物流業者が関わっていて、こうした地道な連携が重要になる。他にも、細かく受け取り時間を指定できるのは日本くらいで、こういったカスタマイゼーションが数多ある。顧客のカスタマーサービスに対する期待値がものすごく高いというのも特徴だろう。
WWD:ローカライズは容易ではなさそうだが、それでも日本へ進出する価値があると感じた?
マーク:日本市場はたしかに難しい。世界で見てもトップレベルだ。だが、ここに大きな利点がある。例えば、日本では郵便番号を入力するだけで住所が当たり前のように表示されるが、これは日本独自のサービス。これを日本で実装すれば、そのサービスをそのままグローバルへ応用できるわけだ。
WWD:日本にはすでに多くのECベンダーがいる。進出にあたってハードルはなかったのか。
マーク:競合という表現には少し語弊があるが、競合他社が数多くいることはとてもいいことだ。というのも、他社がうまくビジネスを展開できているということは、日本にはいいeコマースの市場があるということがわかるからだ。われわれは北米をはじめ、世界中に競合がいる中でサービスを展開してきた。
そもそも、競合という概念がなく、誰もが大きなエコシステムの中のプレイヤーでしかない。お互いにいい影響があって、競合がいるからこそイノベーションが起こるのだ。当社の4000人の社員のうち1000人以上はエンジニア。競合や世の中の流れに合わせて、アマゾンやインスタグラム、ビデオゲームとも連携をしており、こうした迅速な進化・対応も他社がいるからこそ生まれる。日本ではインスタグラムのストーリーズにもタグを埋め込めるようになったし、SNS広告の利用、サイト内でのAR技術も使えるようになった。こうした進化によって、日本の事業者が世界に対していい販売体験を提供できるようになっているのだ。
WWD:そもそも「ショッピファイ」がグローバルでここまで成長できた要因は何か。
マーク:さきほど日本が非常にユニークな市場だと伝えたが、どんなにマーケットがユニークであっても、事業者がやりたいことは、何かを誰かに売りたいということ。これだけは日本でもアフリカでも変わらない。だから、われわれは誰がどこにいても簡単に、世界中に対して売っていくことができるツールを作ることに特化してきただけなのだ。例えば、事業者は登録をしてすぐにサービスを使えるし、マーケットプレイスへの出店もできるし、AIを活用して返品率を下げることだってできる。これらは全ていい購入体験を提供するためのサービスにすぎない。しかも、こうしたサービスが月額使用料だけで余分なコストも開発も必要なく、簡単に利用できる。シンプルなサービスでありながら、パワフルなソリューションを低コストで提供する。世界中にいる事業者を“激励する”プラットフォームなのだ。
われわれは1分間に1万以上の注文を受けられる仕組みを持っている。だから個人事業主からグローバルの大企業まで、売り上げに関係なく利用してもらえることも大きな強みになっているはずだ。
WWD:徹底的にシンプルなプラットフォームに徹しているということか。
マーク:サービスによっては大幅なバージョンチェンジによって更新に費用がかかることも多い。しかし、これでは費用をまかなえない個人事業主の生活が成り立たなくなってしまう。僕らは会社からお給料をもらって生活をしているが、事業者の方々は商品を販売して生活をしている。ビジネスにかけるべきお金をインフラにばかり投資していては生活ができなくなってしまうのだ。だから、社員全員が半端じゃない責任感を持ち、事業者のためのできることは全てやることにしている。
われわれのプラットフォームは実はバージョン0のまま。もちろん毎時間15程度のアップデートはあるが、こうした小さなアップデートを積み重ねることで10年変わらないプラットフォームを実現している。だからサーバーのダウンタイムもほとんどない。会社としては事業者が使っていることを忘れるくらいに問題のないサービスを目指している。
WWD:でも、それでは、もうからないのでは?
マーク:心配してくれてありがとう(笑)。基本的には60万店舗の顧客がいるので、月額利用料が大きな収入となっている。安いものなら月額29ドル(約3200円)から利用可能だが、規模によっては月額2000ドル(約22万3800円)の「ショッピファイ プラス」を使ってくれる企業も多く、日本でもタビオやコムデギャルソンなどが導入をしている。他にも、事業者が仲介手数料なく利用できる自社の独自決済サービスによるレベニューシェアや、サイトデザインなどをカスタムするためのアプリからの収入がある。
WWD:日本のEC市場を見て、感じた特徴はあるか。
マーク:日本の顧客は商品を買う時に事業者に対して多くの情報を求める。アメリカではシンプルなサイトで最低限の説明があればみな購入をするが、日本では詳細な説明や口コミなど、全ての情報を集めて購入をする。つまり、プロダクトがよくても信頼関係がなければ売れないのだ。だからか、日本の事業者はレビューのプラグインを使ったり、アマゾンなどで並行して販売するケースが多い。実はカスタマーサポートを現地においているのは日本だけ。こうした信頼関係の構築に必要なサービスはまさにローカライズの対象だった。
WWD:一方で、日本の小売市場はEC化率が低く、まだまだオフラインが強い。ショッピファイにとってこれはチャンスか。
マーク:「ショッピファイ」はECサービスだけでなく、POS機能も持っているので、店頭を含めたオムニチャネルツールとして利用いただける。日本では言語や決済対応を絶賛ローカライズ中だが、オフラインでの購入履歴もオンラインの管理画面に集約できるので、まさにオムニチャネルでの販売が可能になるわけだ。他にも、店頭商品ごとにQRコードを生成して店頭からネットへ送客できるし、AR機能だって重要なオムニチャネル施策だろう。また、最近日本でも表参道でポップアップを行ったが、店舗を持たない事業者に対して、こうしたスペースを設けて販売してもらえるような仕組みを今後は増やしたいと考えている。
WWD:最後に、マーク氏はショッピファイをどんな会社だと思うか。
マーク:どの会社でも言われることだろうが、ショッピファイは本当にユニークな会社。自分ができることで、ビジネスに反映されることであれば、なんでもできる。実際誰も進出を予想しなかった日本に対して、僕がCEOに直接相談したら「やってみろ」と言ってくれて、メンバーが集まって、こうして事業を拡大することができた。当時は日本専用のサイトがなかったから、僕がコードを勉強して自分で写真を撮って、サイトを作ったんだ(笑)。自分でやるのであれば、なんだってできる。これこそ会社が成功する理由だと思うし、僕が今も日本にいて、ショッピファイで仕事を続けている大きな理由だ。