「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保玲デザイナーがディレクションするセレクトショップ、ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET以下、DSM)が、11月3日に米ロサンゼルス(LA)のアーツ・ディストリクトにオープンした。ダウンタウンからほど近いこのエリアには新進気鋭のショップが点在し、近年注目を浴びている。6店舗目となるDSM LAは1400平方メートルの1フロアで、これまでの店舗に比べて大きいわけではない。それでもカリフォルニアの青い空と強い日差しの中、倉庫街に建つ白い建物の存在感は強烈だ。オープンを直前に控えたDSM LAで、DSMのトップであるエイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)=コム デ ギャルソン インターナショナル(COMME DES GARCONS INTERNATIONAL)最高経営責任者(CEO)兼ドーバー ストリート マーケットCEOに話を聞いた。
WWD:6店舗目をLAに選んだ理由は?
エイドリアン・ジョフィ(以下、エイドリアン):ただここに出店したかった、それだけだ。これまでの全ての出店が同じ考え方で、とても自然な流れでやっている。過去には(同じアメリカで)マイアミにも出店する機会があったが、その時はたまたまNY店をオープンしたばかりだった。いつも頭のどこかに新しいことをしたいという考えがある。あえて理由を挙げるとしたら「コム デ ギャルソン」はアメリカに進出して35年になるが、NYとLAに出店しているから。だからLAにもいいお客さんが付いている。
WWD:オープンが当初の予定であった3月から8カ月遅れたが、なぜか?
エイドリアン:ロサンゼルス市の許可を得るのがとても難しかった。基本的にLAは許可申請に時間がかかる。8カ月はまだいい方で1年間待っているという人もざらにいる。オープンが遅れたことで、春夏コレクションを全て諦め、9月の秋冬の展開に合わせたかったというのが本音だ。本来、11月のオープンはファッションとしてふさわしくないが、昨日やっと最後の許可が下りた。
WWD:LA店は1階のみで、他のDSMの中でも変わったレイアウトに感じる。
エイドリアン:DSMで最も大事にしているのは独立した建物であるということ。ただ、シンガポール店も1階のみ(イギリス軍のバラックを改装)なので、これが初めての1フロア店舗というわけではない。LAのこのエリアに決めたのは、このビルがここにあったからというのが正しいが、このエリアの雰囲気をとても気に入っているし、まだ発展していない場所というのもいい。全ては川久保(玲コム デ ギャルソン)社長が決めることだが、最初は1棟だけだったので、その段階では狭く、もう1棟あれば面白いことができるかも知れないと考えていた。結果的に3棟が空き、全てのビルの壁を貫き、全体をジャイアントハット(HUT=小屋の意味で、DSMのロゴや店舗内のディスプレーとしても使われている)で包み込んだ。その中に通路やフィッティング、レジなどもある。円と直線などのコントラストも川久保社長らしいデザインになっている。常に自然に、どうやれば面白くできるかを考えに考えた結果だ。
WWD:これまでのDSMにはない、新しいコンセプトがあると聞いたがそれは?
エイドリアン:もちろんDSMのDNAは継いでいる。そのDNAを守りながら新しいコンセプトとして“白”を取り入れた。なぜかは川久保社長しか分からないが、想像するにカリフォルニアの光をそう捉えたのではないだろうか。本来、DSMは白くない。これまではブルーやメタル、ビンテージカラーだった。
WWD:今、世界のDSMのトップスタッフがLA店に集まっているとか?
エイドリアン:そう。DSMは大きなファミリー。だから新しいDSMがオープンする時にはできるだけ多くのファミリーに見てほしい。DSMは、店舗ごとに全て違うが、共通点はコミュニケーション。今回は世界中から35人のスタッフが来ているが、コミュニケーションはそれぐらい大事なことだ。コミュニケーションが必要ないなら、オンラインでショッピングすればいいが、それだとつまらない。お客さまとのコミュニケーションは、スタッフ同士がコミュニケーションできている上で可能なことだと思っている。だからこそ、DSMは生き残れる。そして今回は、日本から職人が20人も来ている。木工、金属、家具などを作った人たちに来てもらった。私自身とても印象深かった。まさに“20人の侍”のようだ。
WWD:ロングビーチで開催される「コンプレックスコン(ComplexCon)」の開催日とオープンが同じだが狙いはあるのか?
エイドリアン:全くの偶然だ。オープンが遅れてしまい、最初は9月初め、10月19日と延びていた。そこから2週間、「コンプレックスコン」のために世界中からLAにメディアが来ている。素晴らしいことだ。その偶然すら素晴らしいと思う。
WWD:LAはストリートファッションが盛んだ。DSMの“ストリートウエアとラグジュアリーのミックス”というコンセプトが街にいい意味でハマるのでは?
エイドリアン:そうかも知れない。DSMのこのコンセプトは15年前から提案していることだが、少し疑問もある。盛り上がっているが、今がピークではないだろうか。ラグジュアリーがストリートっぽくなっていき、心配だ。もともとのストリートの精神が弱くなる。だからこそDSMが新しいことを探さなければならない。
WWD:その新しいこととは?
エイドリアン:それを考えるのは大変な作業だ。いつも考えている。“ストリート”の前にクリエイションが必要。昔のいわゆるストリートはもう少しクリエイションがあった。Tシャツの上にロゴを載せるだけでは面白くない。どういう風に自分のクリエイションをストリートにミックスするか――LA店にはそういうブランドを誘致した。
WWD:LA店の次はパリにオープンすると聞いたが。
エイドリアン:それは全くの間違い。一部でパリに出店すると報道されたが、それは私の説明不足だった。パリ、モスクワ、ベルリン、韓国、中近東などいろいろと候補があり、パリは可能性の一つに過ぎない。パリが本当に面白いのか……それはまだわからない。まずはLA店に1年間は力を注ぎたい。次のことはまだ何も考えていない。
WWD:ではLA店を今後どんな店にしていくのか?
エイドリアン:より素晴らしい店舗にするだけ。川久保社長がいい店をディレクションし、それと同じレベルでどんどん強くしていかなければならない。