フランスで五月革命が起きた1968年に創業したシューズブランド「アルシュ(ARCHE)」が創業50周年を迎えた。ウィメンズを中心にコンフォートな靴を得意とし、世界30カ国以上で展開する。フランスでは数少ない一族経営のブランドで、創業者の娘と息子がかじ取りをしている。ファミリービジネスを50年続ける秘訣をカトリーヌ・エレーヌ(Catherine Helaine)=アルシュ最高経営責任者に聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):「アルシュ」のビジネスの成り立ちは?また、現在は誰がビジネスに携わっている?
カトリーヌ・エレーヌ=アルシュ最高経営責任者(以下、エレーヌ):1968年に両親が創業した。ブランドのクリエイティブな部分を担っていた父はユートピアンで、常に幸福を追い求めていた。当時の靴はレザーソールが主流で硬いものが多かったから、父はラバーソールで柔らかいレザーの靴が作れないかと、硬くて窮屈な靴から足を解放する方法を探していた。母は左脳タイプの人だったから経営を担当していた。それから約50年経って、双子の兄弟(ピエール・エマニュエル・エレーヌ(Pierre-Emmanuel Helaine)=アルシュ副会長兼社長)と私が会社を運営している。
WWD:二人の分担は?
エレーヌ:自分で全部やる必要があるのがファミリービジネス。デザインチームはあるが、父から引き継いだブランドのスピリットが反映されているかどうかなど、最終的なチェックはわれわれが行う。ピエール・エマニュエルは香港に住んでいるから、アジアのマーケットは彼がメーンで担当している。
WWD:競合相手は?
エレーヌ:独自のポジションを築いているから他社を意識していない。常に品質とそれを踏まえたデザインにこだわり、自分たちのルーツやDNAを忘れないことを大切にしている。あらゆるブランドがトレンドを意識したアイテム作りを行っているが、「アルシュ」は絶対にファッショントレンドに左右されないし、われわれにとって“デザイン”とは、いかに機能的にできるかということを指す。父はよく「Shoe must fit.(靴は足にぴったり合わなければいけない)」と言っていた。実はこれが最も難しいことであり、大事なこと。
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WWD:イタリアと比較すると、フランスは一族経営のブランドは少ないように思う。
エレーヌ:少ないし、ますます減ってきていると思う。ファミリービジネスの難しいところは、いかにトレンドに左右されず、自分たちのストーリーを展開していけるかということと、代表的なアイテムを作る力があるかどうかだ。時にトレンドは非常に魅力的に映ることもあるが、われわれはそのフィールドで戦わないし、戦ってはいけない。デザインチームがトレンド性のあるデザインを持ってくることもあるが、そんなときは「ノー、DNAが何か分かっているだろう」という話をする。
WWD:日本のビジネスはいつから?
エレーヌ:2002年から。現在は東京・自由が丘の直営店に加え、主要百貨店内に14店舗など、計45店舗で展開している。日本文化はクオリティーにセンシティブ。だからこそフランスのブランドが上陸しては消えていく中、われわれは成功して18年も続いているのだと思う。
WWD:今後伸ばしていきたい分野は?
エレーヌ:メンズシューズにも力を入れている。ウィメンズシューズと比較すると遊べる部分が少ない分、メンズシューズにとってクリエイティブであることはウィメンズよりも重要になってくるだろう。現時点では規模はまだ小さいが、スニーカーとビジネスシューズの間の市場を埋められると考えている。
WWD:ファミリービジネスを続けていく秘訣は?
エレーヌ:自分たちのスピリットとインディペンデントを貫くこと。ラグジュアリーブランドのように世界中に出店することもできなくはないが、それはわれわれのやりたいことではない。自分たちがいいと思った靴を作って、売りたい場所に売りたい方法で売る。
WWD:50周年を迎えたブランドが次に目指すゴールは?
エレーヌ:創業した1968年は革命の時期だった。激動の時代が50年かけて1周して、また再び変化の時期に入る。その中でブランドの認知度を高めることを目指していく。子どもたちもいるから、彼らに託せるといいなと思っている。