毛皮の使用を廃止する“ファーフリー”を宣言するブランドが続き、行政としても米サンフランシスコ市やロサンゼルス市、ウエストハリウッド市やバークレー市は毛皮製品の販売を禁止するなど、「毛皮製品は過去のもの」といった風潮が強まっている。では、その代替品である人工ファーは地球環境に配慮していてサステイナブルなのか?専門家に話を聞いた。
“人工ファーはたいてい化学繊維で、生産時や洗浄時にマイクロファイバーを排出する”
フランソワ・ソシェ(Francois Souchet)=エレンマッカーサー財団 循環型繊維イニシアチブ リードは、「毛皮の議論はこの上なく倫理的なものであり、倫理は意見に基づく。われわれは事実に基づいた組織であり、その意見は広範囲に及ぶ研究から導き出される。そういう意味で、毛皮対人工ファーについての具体的な研究を行っていないので、両者を比較することはできない。しかし、人工ファーはたいてい化学繊維から作られており、生産時や洗浄時にプラスチック・マイクロファイバーが排出される。そして、これらのマイクロファイバーは細かすぎるため、水処理システムのいかなる段階においてもろ過することができずに海に流れ、海洋プラスチック汚染の要因の一つになっている。繊維産業が化学繊維の開発を続け、アパレル産業がそれらの素材の使用を増やすならば、責任ある研究開発が必須だろう。人工ファーや人工レザーなどどんな素材であろうと、より美しく見えるように改良を重ねる必要性はあるが、その見た目だけでなく環境への影響においても、より配慮したものに革新することが必要だ」と話す。
“ファーの問題は小さなパイにすぎない。重大な問題はファッションの過剰消費”
リンダ・グリアー(Linda Greer)天然資源保護協議会上級研究員・環境毒性学者は「毛皮も人工ファーも環境的に良いものはないが、いずれも服全体の中で考えたら小さなパイに過ぎない。それに現時点では、どちらが悪いかということに対する信頼性の高い科学的データが不足している。重大な問題はファッションの過剰消費であり、私の究極の提案は、『買う服の量を減らすこと、そしてビンテージウエアを買うこと』だ」と語る。
国際毛皮連盟CEOの視点は?
マーク・オーテン(Mark Oaten)国際毛皮連盟最高経営責任者は「人工ファーは自然分解しない。毛皮は人工ファーよりも環境への影響が少なく、クリーンで持続可能な素材だ。暖かさで毛皮に勝るものはない。また人工ファーを子どもたちに残そうと思う人はいないだろうが、毛皮は正しく扱えば何世代にもわたって継承することができる。使用中も他の素材に比べ環境負荷がきわめて低い。毛皮産業は「循環型経済」の機会を提供している。例えば、ミンクやフォックスの餌は主に廃棄物を利用して製造され、新たな廃棄物の発生を減らしている。ミンクの骨粉は木材チップと同じ熱量を持つため、暖房として利用できる。また、肥料の一成分としても使用される。焼却過程から出る灰も、セメントやコンクリート、アスファルトの一部として使用され、ミンク油脂はバイオ燃料としても用いられることもある。そしてわな猟は野生生物の個体数管理に必要とされている。加えて、現在は科学に基づいた動物福祉批評認証「ウェルファー」や、トレーサビリティーのグローバル認証「ファーマーク」を開発している。2020年までにそれらの認証を得た毛皮の提供を行う予定だ。環境パフォーマンスを改善するための環境認証制度も発足した。私は毛皮の明るい未来を信じている」と意気込む。
動物愛護団体PETAの考えは?
ダン・マシューズ(Dan Mathews)PETAシニア・バイス・プレジデントは「シアリングのみを使用するデザイナーが増えていることは、間違いなく大きなステップで、デザイナーたちが動物製品を使わずにデザインする日を心待ちにしている。毛皮の使用廃止はその流れの良い始まりになるだろう。私が最重要視しているのは動物の生命だが、環境に対する懸念もそこに関連していると考えている。というのも、動物の毛皮は化学的に保存する必要があり、そういったことへの懸念も大きい。さもなければ、毛皮は肉が腐敗するように腐ってしまう」と話す。
毛皮も人工ファーも課題アリ
ベルギー・ゲントのオーガニック・ウエイスト・システムズ(Organic Waste Systems)研究所は、密閉埋め立て状態に似せて作られた状況の中で毛皮と人工(プラスチック)ファーについて生分解するかどうかの調査を実施し、毛皮は樫柳の葉と同程度で生分解する一方、人工ファーには生分解の気配はなかったと発表した。
毛皮と見間違えるほどの人工ファーの製造で知られ、ラグジュアリー・ブランドからグローバルSPAまでに人工ファーを供給するエコペル(ECOPEL)は、19-20年秋冬にペットボトルを原料とした再生ポリエステルの人工ファーを発表し、これまでよりもサステイナブルな素材としてアピールする。また、クリストファー・サファーティ(Christopher Safati)=エコペルCEOは「現在、生分解性の人工ファーを開発している」ことを明かした。クオリティーが高い生分解性の人工ファーの開発が進めば、人工ファーが優位に立ちそうではある。
現段階では、アニマルライツや飼育からなめしまでの環境負荷に目を向けると、人工ファーがいいと言える。また、トレーサビリティー(飼育から加工・製造・流通などの過程を明らかにすること)の面から見ると、一部の毛皮を除き、現在では毛皮のトレーサビリティーがあいまいであるため、そういった意味でも人工ファーの方が透明性がある。一方で毛皮は、食肉の副産物として余すことなく利用するという意味でサステイナブルだ。また、野生生物の個体数管理のためのわな猟で得た毛皮も、生態系を守るという意味ではサステイナブルと言えるだろう。加えて、毛皮は土に還るという意味では環境に優しい。今のところ毛皮も人工ファーも、動物福祉や地球環境の視点で見ると課題はそれぞれに抱えていると言えるだろう。