中国でもっとも通販が売れるという11月11日(通称・独身の日)にあわせて、大手EC企業JD.comの取材のために北京を訪れた。JD.comの技術を用いた無人店舗視察(それについての記事はこちら)や大手家具店・生鮮スーパーでのオムニチャネル体験(それについての記事はこちら)を経て、いよいよ独身の日当日のJD.com本社を訪れた。日曜日にもかかわらず、さすがに本社も通常営業の様子で、午後には国内メディアを呼んだ独身の日関連のお披露目イベントまで開催された。
当然ながら本社は超巨大なビル。それでも2万人近くいる社員が収まりきらず、現在は同規模のビルを3棟立てているそうだ。社員のために深夜まで運行する巡回バスがあったり、託児所やジムも併設するあたりはさすが大企業。面白いのは食事に関してで、19時以降(残業時間)の食事が無料なのは当然のこと、毎日出社するごとにランチ代として自身のアカウントに15元(約240円)がチャージされるらしく、これを楽しみにする社員も多いという。ちなみに、この日の夜は本社近くのレストランで食事をしたのだが、社員があまりに利用するためにJD.comがこの店を買い取ったらしく、これにはさすがに驚いた。
さて、本社内にはスーパーや電子機器を扱う専門店「京東之家」などに加えて、無人コンビニ「无人超市」の最先端実験店舗がある。仕組みについては1回目のコラムに書いたが、ここではなんとRFIDタグすら使っていないという。入退店用のゲートでのアプリ読み取りと店内の無数にあるカメラ、そして棚に仕込まれた重量センサーによって誰が何をとったかが把握できるらしい。実際にミスも1000件に1件程度の割合で起こるというが、ここはまだ社員専用のため、そうしたミスを発見するためにも実験的な仕組みを導入しているわけで、将来的にはカメラの顔認証技術によって、スマホも商品タグも必要ないお店ができる可能性もあるそうだ。
午後に自社ホールで行われたイベントでは、10日時点でのカテゴリ、地域ごとの売り上げ報告がなされた。ここでも印象的だったのはオフラインの支援強化にかなり注力していること。前日までの視察でも見た通りなのだが、JD.comが持つオンラインデータと物流を活用して中国に限らず世界中のオフラインを変えていこうとする気概を強く感じた。翌朝に発表された独身の日の売り上げは、前年同期比25%増の1598億元(約2兆6200億円)。中国EC最大手アリババ(ALIBABA)も同26%増の2135億元(約3兆5110億円)と、ともに過去最高を記録しているが、成長率はたしかに鈍化している。JD.comとしても今後の勝負の場をオフラインに据えていることは明らかだろう。
3泊4日の視察を終えて、やはりこのオフラインへの注力度合いがもっとも印象に残った。彼らは失敗を恐れずに出店し、データを得てアップデートを続ける。しかも多店舗展開によってその効率は格段に上がるだろうし、来店客もそれに順応して違和感なく暮らしている。今後、ものすごいスピードでオフライン店舗は変わっていくし、小売りのビジネスモデルも確実に変わるだろう。普段日本にいる自分からすると、この進化の速度はかなりの脅威だと感じた。
もう1つ、今回の視察で強く感じたのが、ミレニアル世代はもう若くないということだ。2万人いるJD.comの社員平均年齢は何と27歳。20代がこの国を動かしている。僕自身も今年27歳だが、自分の記事・特集が「若者の視点」と捉えられたり、「ミレニアル世代ならではの意見」と見られることも多い中で、20代の意見はもはや「若者の意見」ではなく「一般的な意見」になりつつある。今回の視察で訪れた記者チームにも僕より年下の記者もいたのだが、僕自身もう「若者の意見」という感覚は捨てなければいけないと思ったし、これからの時代を作る20代の意見を「若者」と一括りにして区別するべきではないと強く感じた。