北米を中心に、18~34歳のミレニアル世代から絶大な支持を得る「ヴァイス メディア(VICE MEDIA)」は、日本を含め世界40カ国で月間2億8000万人の視聴者にリーチしている。1994年の創業当時は、ドラッグやセックス、ブラックカルチャーなどセンセーショナルな内容を取り上げたフリーペーパーに過ぎなかったが、現在は音楽やファッションなどのカルチャーから、社会問題に国際情勢、気候変動などのソーシャル・インパクトと言った幅広いテーマのコンテンツをウェブやテレビで配信する複合メディアに成長した。このほど、「ヴァイス(VICE)」が東京・渋谷で開催したトークイベントには、村上隆と藤原ヒロシも登壇。日本を代表するクリエイターの2人が同じイベントに出席するだけでも、「ヴァイス」がメディアとしていかに注目されているのかがうかがえる。なぜ今、「ヴァイス メディア」が若者から支持されるのか。スルーシュ・アルヴィ(Suroosh Alvi)=ヴァイス メディア共同創設者とホシ・サイモン(Hosi Simons)=ヴァイス アジア・パシフィックCEOに話を聞く。
WWD:あらためて「ヴァイス」とはどういうメディアなのか?
スルーシュ・アルヴィ(以下、アルヴィ):さまざまことをやっているので、「ヴァイスとは?」という質問に答えるのは簡単じゃないんだけど、本当にいろいろなことをカバーしている。オムニバスだね。事業もどんどん進化していて、今は4大分野に注力している。1つ目がニュースオペレーション、2つ目がデジタルディビジョン、3つ目が長編映画などを制作するスタジオで、ココが一番成長している。そして4つ目がエージェンシー。僕たちは、主流のメディアに代わるメディアを目指している。雑誌(「ヴァイス マガジン(VICE MAGAZINE)」)だけをやっていた時は真のオルタナティブメディアではなかったし、オーディエンスもそこまで多くなく、影響力もなかった。でも今や世界40カ国に事務所を構えていて、オーディエンスも拡大した。「ヴァイス」は真のオルタナティブメディアだと言えるよ
ホシ・サイモン(以下、サイモン):「ヴァイス」はスルーシュが25年前に発刊したんだ。僕たちのコアな読者はミレニアルズ。今はコンテンツをより若い“ジェネレーションC”に向けても作っていて、例えば、スナップチャットやゴージェック(インドネシアのSNS)、ウィーチャット(中国のSNS)、インスタグラムなどの新しい配信方法も使っている。
WWD:ジェネレーションCに向けてリーチするにはやはりSNSが有効と考えるか?
サイモン:いや、SNSに限らずありとあらゆる手段を使っている。それを僕たちがおもしろいと思うことが重要だと思う。これまでのメディアやジャーナリストは一つの形態でしかストーリーを伝えていなかった。テレビならテレビ、デジタルならデジタルみたいにね。僕たちが考えるのは、世界中の若い人にとって最も有効なストーリーが何かっていうことであって、フォーマットは2次的なものに過ぎない。伝えるべきは何かってことを考えているんだ。
WWD:雑誌「ヴァイス マガジン」から、あらゆるフォーマットで発信し始めたきっかけは?
アルヴィ:2006年に動画でストーリーを伝えるという新しい方法にチャレンジしたんだ。これがターニングポイントだね。この時、映画監督のスパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)とも初めてタッグを組んで、短編映画を撮影した。雑誌ももちろん素晴らしかったが、短編映画を作ってオンラインにアップすると、雑誌では月15万人だった読者がオンラインでは何百万人にもなった。一夜にしてそれだけ読者が増えたことに驚いた。そして、ミレニアルズを引き込むためにはドキュメンタリー映画を作らなければならないという考えになり、従来型のメディアにはない、“全て”に挑戦することした。
WWD:当時の「ヴァイス マガジン」はセックスやドラッグなどのネタを扱っていた。若者を引き付けるには、何が必要だと考える?
サイモン:「ヴァイス」はずっと他では見られないエッジの利いたストーリーを取り上げてきた。今は40カ国30言語で1500のコンテンツを作っているし、音楽、ファッション、テクノロジー、社会問題など、若い人が重要だと思うことを全てカバーしている。
WWD:ディープなネタを集めるための体制は?
サイモン:40カ国で全従業員は3000人を超えている。その半分以上がコンテンツクリエイターで、それぞれのプロダクションに制作力があり、制作施設も持っている。映画を作れる編集能力もあるんだ。それにコントリビューターのネットワークもあるしね。実は売り上げの半分が北米で、残りの半分がそれ以外の国外なんだけど、世界中のオフィスが完全に統合されているので、コンテンツのスピードも質もどこで作っても全く一緒なんだ。
アルヴィ:従来のテレビの世界ではライセンスビジネスが当たり前だけど、動画は全て自社で作っていて、そういうスタイルは稀だと思う。でも25年間ずっと自社で作っていたから実はそのことを全然知らなかった。今はこれだけオフィスが増えたので、品質管理が最も重要な課題だと思っている。品質管理はホシの仕事だね(笑)。
サイモン:そうだね(笑)。僕らは情報や娯楽を発信して若い人にエンパワーしているんだ。とにかく「ヴァイス」を読んだり見たりした人に何かを感じてほしい。それがプラスでもマイナスでも何らかの反応をしてほしいと思っている。
WWD:スタッフにはやはり若い人が多い?
サイモン:多いね。数年前に調べた時は平均年齢が26~27歳だった。スタッフも読者の一部なんだ。上から押し付けるということはしない。読者と一体なんだという気持ちでやっている。
WWD:若い人が国際問題や政治に興味があるのはなぜだと思う?
アルヴィ:「ヴァイス」のジャーナリストも、全員がそうではないけど多くが興味を持っている。今、アメリカはクレイジーな状況だけど、アジアに行けば状況も違い、今やニューヨークが世界の中心ではないということが明らかになる。みんな“世界”を見ようという展望を持っているね。
サイモン:“世界”というのは別にグローバルなことだけじゃなくて、自分の周辺のことでいいんだ。友達やコミュニティーみたいに自分の周りの世界でいい。全ての人が変化を求めていて、自分の周辺の未来をどうよくしていきたいか――今はそういう段階にある。僕は今、日本の若者が何に興味を持っているのかにとても関心があるんだ。アジアでは今、自分の国の文化に自信を持ち始めている。国外から文化を取り入れるのではなくて、自分たちで発信するようになった。10年後にどうなるのか、とても興味がある。
アルヴィ:僕は日本のカルチャーにおいて、これまで明らかにされていなかったところをどう表現していくかに興味がある。誰でも政治や国際問題を明らかにするのは恐怖を覚えるけど、若者が将来、自由な表現や視点を持てるように背中を押していきたいと思う。