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500億円規模の中国市場から追いやられた「ドルチェ&ガッバーナ」 どこで何を間違ったのか?

 「48時間で30年間のブランディングが蒸発し、消えて失くなった。まるで巨大な土砂災害だ。そしてその大崩壊のスピードはすさまじかった」とコンサルティング会社、ザ スタイル ゲート(THE STYLE GATE)のアレッサンドロ・マリア・フェレーリ(Alessandro Maria Ferreri)創業者兼最高経営責任者(CEO)は今回の「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」の中国での炎上騒動を振り返ってこのように語る。

 フェレーリCEOが言うように、人種差別的との批判を受けることになった動画キャンペーンの公開から、ステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)=デザイナーのアカウントが発した数々の中国を侮辱する内容のメッセージの流出、セレブリティーたちによる上海でのショー参加拒否、莫大な資金をつぎ込んだ500ルックにも上るショーの中止、多くのリテーラーが同ブランド製品の取り扱いをやめるまでのスピードはかつてないものだった。

 メディアの報道によれば、「ドルチェ&ガッバーナ」の2018年の売上高は13億ユーロ(約1664億円)を見込んでおり、マッキンゼー・アンド・カンパニー(MCKINSEY & COMPANY)の推計によれば、同ブランドの売上高の30%は中国が占めるという。つまり今回の騒動で「ドルチェ&ガッバーナ」はおよそ4億ユーロ(約512億円)の市場を危機にさらしたことになる。

 すでにそれぞれのECサイトから「ドルチェ&ガッバーナ」の製品を削除したアリババ(ALIBABA)やJDドットコム(JD.com)、セコー(SECOO)など中国大手EC企業に加え、中国語圏で10店舗を抱える中国の有力百貨店レーン クロフォード(Lane Crawford)も店舗とECサイトでの取り扱いを停止。同ブランドの店舗周辺には万一に備えて警察官や警備員が配備された。さらに波紋は世界に広がり、ヨーロッパ拠点の大手EC企業ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)の中国版ECサイトや伊ECサイト「ルイーザヴィアローマ(LUISAVIAROMA)」も同ブランド製品を削除した。しかし、全てのリテーラーがブランドから離れたようではないようで、伊百貨店リナシェンテ(RINASCENTE)はミラノとローマの店舗で「ドルチェ&ガッバーナ」のポップアップを予定通り開催している。

 毎年グローバルブランドの価値を決めるランキングリスト「ベスト・グローバル・ブランズ(Best Global Brands)」を発表しているコンサルティング会社インターブランド(INTERBRAND)のレベッカ・ロビンス(Rebecca Robins)=グローバル・チーフ・ラーニング&カルチャー・オフィサーは、危機管理は迅速かつ大胆な行動が必至と語る。「消費者はこれまでになく厳しくなっている。その中で信頼できるビジネスとは危機に面した際、どのように行動するかだ。例えばスターバックス(STARBUCKS)は、ある1店舗で人種差別的問題が起きたとき、全店舗を終日閉めて、代わりに研修を行った。ブランドが失敗を犯したときの答えは常にどう対応するか。大胆な決断と行動をし、それをどれだけ早く表に出し、意味のあるものにできるかが常にカギとなる」と論じる。

 一方、「ドルチェ&ガッバーナ」の対応は迅速とは言えなそうだ。問題となったキャンペーン動画は、ウェイボー(Weibo、微博)のアカウントからはいち早く削除されたがツイッター、インスタグラム、フェイスブックのアカウントから削除されるのには2日以上かかった。そして同ブランドは最初に発表した声明で「ハッキングされた」と主張したが、それはさらなる疑念を生み、2回目の謝罪文を投稿することになった。この2つの行動がさらに炎上を煽ることとなり、同ブランドの創業者でデザイナーデュオのステファノとドメニコ・ドルチェ(Domenico Dolce)が「中国を愛している」と訴える謝罪動画を公開するに至った。

 「人々の怒りとボイコットの矛先はデザイナー兼ブランドのオーナーだ。また、多くの小売りパートナーを失ったことで、より手頃な価格に再設定してマス市場をねらうという道筋もある。そうなれば、ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナは失権することになり、ほんの一例だが、トム・フォード(Tom Ford)のよ​​うな有名デザイナーにブランドを任せれば、再建できるかもしれない」と、ブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE’S)やハーヴェイ・ 二コルズ(Harvey Nichols)、「フルラ(FURLA)」などをクライアントに抱えるフェレーリ=ザ スタイル ゲートCEOは語る。だが、ドメニコ一家が同社の過半数の株式を所有しているとはいえ、ステファノに責任を押し付けて会社から追放するかどうかは疑問が残る。

 「ドルチェ&ガッバーナ」はこれまでも数々の炎上騒動を起こしてきたが、今回ほど大きな損害を出さずに乗り切ってきた。ステファノは9月、インフルエンサーで起業家のキアラ・フェラーニ(Chiara Ferragni)が結婚式で着用した「ディオール(DIOR)」のウエディングドレスに対し、「cheap(安っぽい)」とインスタグラムのコメント欄に投稿。今回の炎上騒動を受けてキアラが「因果応報ね(Karma)」とコメントしているのも不思議ではないだろう。6月にはポップシンガー、セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)の写真に「醜い」とコメントし、セレーナのファンを中心に多くのバッシングを受けることになった。

 さらにブランドの長年の顧客であるメラニア・トランプ(Melania Trump)米ファーストレディーをサポートするべく、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の街宣中にステファノは多くのアンチトランプ派のセレブを批判しており、シンガーのマイリー・サイラス(Miley Cyrus)との関係にも不和が生じた。しかしそんな中で同ブランドは「ドルチェ&ガッバーナ」を批判するムーブメント「#BOYCOTTDG」を皮肉ってこのハッシュタグをプリントしたTシャツを非常に高い値段で売るなど、炎上を楽しんでいるようにも見えた。それ以前にもエルトン・ジョン(Elton John)ら多くのセレブリティーを敵に回してきた。

 しかし今回の騒動についてある情報筋は、「インターネットは忘れっぽい傾向があるとはいえ、今回は誰もデザイナーを守ろうとしなかった」とコメント。また別の情報筋も「今回の騒動はさまざまな意見に分かれることなく、人々が一丸となっていた。そのおかげでファッション業界以外の一般の人々の耳にも今回の騒動が伝わることになった」と、今までの騒動との違いを指摘する。

 ブランド再建についてある情報筋は「議論はブランドのコントロール外に広がるばかり。今は黙って、人々が忘れることを祈る時」と語り、「中国の文化施設への寄付などをしても、嘘っぽく見せかけだけの対応に見える。そもそも問題の動画に対して人々が否定的なリアクションをし始めた時に、中国の国内テレビ局を通じて謝罪などをするべきだった。だが、彼らは何が起きているのか理解できていなかった。誰か助けてくれる人が必要だった」と別の業界筋も意見する。

 「ドルチェ&ガッバーナ」の株式の過半数はドメニコの一家が所有しており、イタリアファッション協会(CAMERA NAZIONALE DELLA MODA ITALIANA)などのイタリアのファッション組織にも所属することを拒んできた。「同ブランドは何年も負のスパイラルに陥っているようだったが、頼ることができる人が誰もいないのではないか」とある業界筋は分析する。

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