数多くの若手ブランドがひしめき合うロンドンの中でも、メンズブランド「ニコラス デイリー(NICHOLAS DALEY)」はさまざまな国のカルチャーをミックスしたコレクションで異彩を放ってきた。その存在感は英国ファッション協議会(以下、BFC)にも認められ、同協議会の新進デザイナーへの支援を目的とした賞「NEWGEN(ニュージェン)」を受賞し、ロンドン・ファッション・ウイークに参加。プレゼンテーション形式で気鋭ミュージシャンであるコスモ・パイク(Cosmo Pyke)らを迎えたライブと共に発表した2019年春夏コレクションなど、最近では音楽の要素も強めている。「音楽は生まれた瞬間から体に染み込んでいた」と語る彼に音楽とファッションの関係性を聞いた。
WWD:来日の目的は?
ニコラス・デイリー「ニコラス デイリー」デザイナー(以下、ニコラス):年に2回は日本に来ている。各国21店舗中12店舗で取り扱ってくれている日本はブランドにとって最も大きなマーケットだから、取り扱ってくれているショップのバイヤーやスタッフ、そして買ってくれる人たちとの交流が主な目的かな。友人のような関係で付き合っているショップが多いんだ。あとはリサーチはもちろんだけど、療養も兼ねている。休めるタイミングがここしかないから(笑)。具体的に「よし、これをするぞ!」という、シリアスなものではないんだ。
WWD:日本でデザインの着想を得ることも多い?
ニコラス:もちろん。他にも、日本にゆかりのブランドからインスピレーションを受けることもある。ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)で働いていたり、日本でも人気の「クリストファー ネメス(CHRISTOPHER NEMETH)」のファミリーとは交流があったり。でも、ただ単に影響を受けるだけじゃなくて、これからはお互いにインスパイアし合いたいとも思っている。
WWD:音楽からインスピレーションを受けることも多いそうだが?
ニコラス:音楽は僕の人生の中でも非常に重要な要素なんだ。父と母は、1970年代に「レゲエクラブ」というイギリス初のレゲエをフィーチャーしたイベントを行っていて、僕が生まれるずっと前から音楽活動をしてきた。だから僕も生まれた瞬間から音楽が体に染み込んでいて、コレクションには常に取り入れてきた。ブランドのファーストコレクションの時も映画監督兼DJで、レゲエ界の重鎮でもあるドン・レッツ(Don Letts)にランウエイを歩いてもらった。ロンドンでプレゼンテーション形式で発表した18-19年秋冬コレクションも、“RED CLAY”をテーマにUKのジャズアーティストたちによるライブセットを取り入れた。自分のアイデンティティーを新たな手法で表現できたと思っているよ。
WWD:音楽とファッションの関係性についてどう思っている?
ニコラス:強い結びつきがある。それは今に始まったことではなく、昔からだね。 18-19年秋冬コレクションでフィーチャーした、ジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)も独特なファッションと音楽が融合し、1つのスタイルとして成り立っていた。デヴィッド・ボウイ(David Bowie)だったり、エイサップ(A$AP)クルーだったりと音楽の質感やファッションの系統は時代によって変わるけど、強くリンクしていることに変わりはないよ。表層的な関係になるのは良くないと思うけど。
WWD:「表層的な関係」とは?
ニコラス:とにかく有名なアーティストを使ってファッションを誇示したり、話題になるために無理やりファッションを取り入れたりする人たちも時々いる。それは不自然で“オーセンティック”じゃない。僕がフィーチャーしているアーティストは、常に交流がある人達なんだ。19年春夏コレクションに出てもらったミュージシャンのコスモ・パイク(Cosmo Pyke)もいつも遊んでいる友人だよ。
WWD:今後、ブランドをどうしていきたい?
ニコラス:まずはより良いモノを作ることにフォーカスしていきたいね。販路も信頼できるショップを探して、少しづつ拡大していくつもりだよ。ブランドとしてまだ芽が出ていない頃から、ビームス(BEAMS)が僕の卒業コレクションを買い付けてくれて、そこから徐々に発展してきた。今後も急激な拡大はせずに自然と広がっていき、ブランドとして成熟させていきたい。