「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などを擁するケリング(KERING)は、ユークス ネッタポルテグループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP、以下YNAP)とのジョイントベンチャーで運営してきたEC事業を、2020年までに自社運営にする。
同社のグレゴリー・ブッテ(Gregory Boutte)=チーフ・クライアント兼デジタル・オフィサーは、17年12月に同職に就任する以前はeベイ(eBay)の幹部を務めていた。「ケリングの強みや競争力を維持するため、私の経験をフルに活用したいと考えている。例えば、オンラインでの買い物で顧客に素晴らしい体験をしてもらうための仕組みなどを作っていきたい」と語る。
ケリングのEC関連の売り上げは急成長しており、第3四半期には80%以上の伸びを見せ、グループ全体における売り上げの6%程度を占めるまでになった。コンサルティング会社のベイン&カンパニー(BAIN & COMPANY)は、25年までにラグジュアリー市場の売り上げの25%をECが占めると予測しているが、ブッテ=チーフ・クライアント兼デジタル・オフィサーは「社内目標は特に設定していない」と言う。「ECは、当社のブランドと出合った顧客が体験することのほんの一部にすぎない。EC単体での売り上げ目標を設定してしまうと、全体像を見失うと思う。ブランドの世界観に触れた体験はSNSや当社のECサイトなどで広がっていくが、同時に実際の店舗でのコミュニケーションやカスタマーサービスにもつながっていく。私としては、データやテクノロジーをどのように使ったら顧客に最高の体験をしてもらえるのかを、常に問うていきたい」。
こうした考えに基づくと、販売プロセスの一つ一つが非常に重要になってくる。そのため、ケリングは5月に完全にコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)の子会社となったYNAPとのジョイントベンチャーを解消し、EC事業を自社運営に戻すことにした。「顧客が使用する全てのチャネルやツールにおいて、一貫性があって、ラグジュアリー感あふれる体験を提供したい。ジョイントベンチャーを設立した6年前は、高級ブランドにおけるデジタル成熟度がまだ低かったのでその道のエキスパートと組んだが、現在は自社でECプラットフォームを運営できるほどのノウハウを持つまでに成長した」。
他の試みとしては、「グッチ」「サンローラン」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の店舗の3分の2で約6500人の販売スタッフが使用しているアプリがあげられる。これは顧客のそばを離れることなく在庫をすぐに確認できることに加え、他店舗からの取り寄せも可能。また顧客の買い物履歴に基づき、来店前に顧客が好みそうなアイテムをそろえておくといった使い方もできる。「このアプリは販売スタッフに大好評で、いずれは全ブランドに導入したい」とブッテ=チーフ・クライアント兼デジタル・オフィサーは意気込む。「スタートアップやテック企業では、迅速かつ適応的にソフトウエアを開発するアジャイル開発という手法がよく使用されるのだが、それをラグジュアリーブランドにも適用している。新たなテクノロジーがもたらすものを先取りし、いかに期待を超えた体験や驚きを顧客に提供できるかが重要だ」。