「ディオール(DIOR)」は11月30日、キム・ジョーンズ(Kim Jones)=メンズ アーティスティック・ディレクターによる2019年プレ・フォール・コレクションを、メゾン史上で初めてランウエイショー形式で発表した。ピエトロ・ベッカーリ(Pietro Beccari)=クリスチャン ディオール クチュール会長兼最高経営責任者(CEO)は、「少なくとも数カ月は(笑)、人々の記憶に残るメモリアルなショーになる。これからは、メンズでもプレ・コレクションのランウエイショーを開くつもり」とコメント。ベッカーリ会長兼CEOの自信通り、来場者の記憶に鮮明に焼きつく、スペクタクルなショーだった。
会場は、6月にパリで発表した19年春夏メンズと同じ作り。あの時カウズ(KAWS)による花で作ったムッシュー・ディオールのアバターが設置された中央には、日本人アーティストの空山基による巨大なメタリックオブジェが設けられた。オブジェはショーのスタート前からまばゆい光を放ち、未来的なムードを醸し出す。そんな中現れたのは、半年前にキムが披露したクチュール級クラフツマンシップのエレガント・ストリートな少年の進化版であり大人版。成長して未来感とエッジーさを手に入れた、勢い溢れる青年たちだ。
ウエアは、防護服に用いられるメタリック素材「タイベック」を用いたシャツジャケットやダウンを筆頭に、霧状のメタルを吹き付けたファーで作ったTシャツなど、総じて光度が高い。特に帽子は、まるで金属製かと思うくらい、一点の曇りもないピカピカ。空山が70年代から作り続けるアートのように、遥か彼方の未来のムードだ。
そして、そんなビビッドな世界観を希釈することなく、誰でも着られるコマーシャルピースに落とし込めるのが、キム・ジョーンズの才能だ。ピカピカのブルゾンには手が出ないアナタには、シルクのシャツを。それさえハードルが高いアナタには、ライトグレーのジャケットを。コレクション内のシンボリックなピースとはかけ離れた洋服に聞こえるかもしれないが、シルクのシャツは七色に光る玉虫色、ジャケットは宇宙戦艦の指揮官が着ていそうな強めのショルダーラインのタイトフィットで、ピカピカのシンボリックピースと同じ世界観にある。
そこに盛り込んだのは、日本的だったり、「ディオール」らしいモチーフやディテールだ。シルクのシャツには空山のアートと桜吹雪が踊り、レザーアウターは着物のような前合わせ。ジャケットは「Dior」の文字“オブリーク”で彩られ、レザーのハーネスには金網状のアイコニックなモチーフ“カナージュ”の模様を描くカットアウトを施した。
フィナーレは、空山のアートを無数のレーザー光線が囲む大絶景。キムによる「ディオール」メンズは、空山の作品の力を借りて、未来に向けて力強く飛び立った。