末安弘明が手掛ける東京のメンズブランド「キディル(KIDILL)」は、2019年1月17日にパリで2019-20年秋冬シーズンのコレクションを発表する。場所はマレ地区のギャラリー・アルベルタ・パンで、モデルを10人ほど起用したプレゼンテーション形式になる予定だ。パリ・メンズ・コレクション期間に世界中から集まるバイヤーに向けてアピールする。
初の海外挑戦について「今が最大のチャンスだから」と末安デザイナーは語る。同ブランドは東京のファッション・ウイークでも数々の印象的なショーを行ってきたが、結果としてビジネスには結びつかなかった。しかし17年に「Tokyo 新人デザイナーファッション大賞」のプロ部門で東京都知事賞を獲得したことがターニングポイントとなる。「受賞がきっかけで、国内では『トレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン(TRADING MUSEUM COMME DES GARCONS)』や『バーニーズ ニューヨーク(BURNEYS NEW YORK)』、香港の『I.T』での取り扱いが決まった。これまでドメスティックブランド中心の店と取引することが多かったが、インポート中心の店も買い付けてくれるようになった」。中でも買い付け金額が多い「トレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン」の消化率は90%と好調で、19年春夏シーズンからは同じコム デ ギャルソン社の「ドーバー ストリート マーケット シンガポール(DOVER STREET MARKET SINGAPORE)」での販売も決定した。卸先は国内外合わせて25アカウントから30アカウントに増え、現在も海外からの問い合わせが複数あるという。興味を持ったバイヤーたちに実際のコレクションを披露するためには「今しかない」と、海外での発表を決めた。
ターニングポイントとなった18年春夏コレクションから、クリエイションにも大きな変化があった。旧知の写真家デニス・モリス(Dennis Morris)とコラボレーションし、モリスが撮影した英パンクバンドのパブリック・イメージ・リミテッド(PUBLIC IMAGE LTD)を率いるジョン・ライドン(John Lydon)の写真を複数のアイテムに大々的に使用した。「『キディル』といえばパンク。でも服にカルチャーをのせることに抵抗がある人もいるので、これまでは控えめにしていた。ただせっかくデニスと一緒に作るからと直球パンクな服を作ったら、売り上げが伸びた。自分が好きなことを素直に表現していいんだと気づいた今は、ただひたすらぶっ飛ばしていくのみ」。
売り上げも伸び、クリエイションの方向性も定まった。満を持してのパリ挑戦となるが、道のりはまだまだ容易ではない。現在、海外のメンズコレクションはパリの一極化が顕著で、参加ブランドは増え続ける一方だ。19年春夏シーズンから「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の参加や「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の復帰など、日本からだけでも公式スケジュールとオフスケジュールを合わせて11ブランドがパリでコレクションを発表している。スケジュールにはゆとりがなく、特にオフスケジュールの会場は客数がまばらなことも珍しくない。しかし、末安デザイナーは「おそらく、来てくれる人は少ないと思う(笑)。今回はPRやブランディングのためではなく、興味を持ってくれたバイヤーに売りにいくためのプレゼンテーション。だから海外のPRもつけてない」と割り切る。しかし「始めるからには今後もパリで発表を続けていきたい。今後は海外PRやセールスをつけることも考えている。他のブランドと違って出資者がいるわけではないので、一歩一歩着実に歩みを進めたい」と続けた。
海外の初舞台では、信頼を置くスタイリストの島田辰哉と共にショーを作り上げる。「日本のハードコアを突き詰めたコレクションになる。自分の原点であるパンクのように、DIYの要素が強いプレゼンテーションになると思う」。ショーを得意とするブランドであるだけに、周囲からの期待も高いようだ。「バイヤーの方からは『このまま変わらないでほしい。次も強い服を待っているから』と言ってもらえた。他にはないものが『キディル』にはあるのだと自信になった。ちょっとプレッシャーではあるけれど(笑)」。