モデル事務所VELBED.に所属するファッションモデル・原田維秀（ゆきひで）は、八百屋とモデル業を兼業する珍しいパラレルワーカーだ。原田氏の実家は110年の歴史を持つ香川の老舗八百屋「原田商店」で、現店主は4代目の母。地元・産直・豊洲市場などから仕入れた青果とお惣菜、調味料などを販売する、いわゆる“昭和スタイル”の八百屋だ。
原田氏自身も八百屋業を学ぶため、香川と東京を往復する生活を送る。香川で地元市場からの仕入れやレストランへの配達といった八百屋業に従事する一方で、東京でもとある八百屋の店頭に立ち、野菜を売る勉強を始めた。その他、友人と通じた農家訪問や、豊洲市場での野菜、チーズ、乾物などの仕入れもするそうだ。加えて、彼が持つ“日本酵素マイスター準1級”という資格を生かした酵素ジュース作りのワークショップを不定期開催するなど、新しい八百屋の形を模索する最中だ。「八百屋は野菜だけでなく自社商品もある野菜のセレクトショップだと思っています。まだ先代がいるので、僕としてはモデルという職業も生かしながら、まずは広い人に知ってもらいながら、これから八百屋として何ができるかを考えているところです」。
最近では事務所の先輩にデザインを相談しながら自身で八百屋のサイト制作を行い、メールやDMを活用したオーダーメードの詰め合わせサービスを始めた。地元香川にいなくても「原田商店」と関わりながら、顧客ニーズを知ることが目的だ。「大手の八百屋とは違って野菜の仕入れ量が毎日変わるので、『なんでもええ』と言ってくれる方がやりやすいんです。香川からの直送となると送料がかかるので、その差分を埋めるために努力をしています。『東京でも買えるやん』と思われたらおしまいですから」。
まだまだオーダーの数は多くないが、彼のもとには「5000円予算で関西より西側のお野菜の詰め合わせがほしい」「好きな野菜とそれに合わせたオリーブオイルや調味料などをセットにして贈答用にしたい」「『原田商店』のチーズとそれに合う食べ方を教えてほしい」といった相談が来るようになった。
原田氏にとって、八百屋業は「ビジネスよりライフワーク」だ。「実家で母が仕事の合間時間を使って詰め合わせをしているので、1日に対応できるオーダー数は限られています。だからオーダーをとにかく増やしたいのではなく、上限を決めて、メールできちんとやりとりしながら、“愛のある”八百屋ビジネスをやりたいと思っています。イメージとしては“田舎の親から送られてくる詰め合わせ”の八百屋バージョン。自分がほしいものと手紙が入ってあるみたいな（笑）。もちろんビジネスとしても成り立たせないといけないですが、まずは自分の生活スタイルの一部に八百屋という仕事を落とし込みたいですね」。
もちろん、今後もモデル業と並行しながら八百屋の仕事を続けていきたいという。「僕は今100年以上続いた家業の5代目として勉強を始めました。長く続いて来たからこそ、まずは自分の好きな農家さんが自信をもって作った青果を売るという"八百屋"の原点からしっかり学んで、いい商売を作りたいです。今はまだ“八百屋見習い”の分際なので偉そうに言えませんが、ちゃんと『モデル兼八百屋』を名乗れるようになれば、それは僕にしかない強みになるはず。そもそもモデルって人生を半分公開しているようなものなので、だったらその人生の濃さで勝負したいなと。“お野菜悩み相談所”として、東京の方が野菜といえば僕の顔を思い浮かべてくれるまでになれたらうれしいですね」。
そもそも、彼が所属するVELBED.は今年4月に設立されたばかりのモデル事務所で、「モデルをいつまでもやれるわけではないから、モデル業以外で自分がしたいことを探すべき」という考えを持つ。彼のようにモデル業と何かという2軸を持つモデルが集まる珍しいエージェンシーだ。「モデル業界も少し前までの『カッコよくてスタイルがいい』というだけでは厳しくなってくると僕は思います。今はSNSなどを通して自分の強みや、やっていることを簡単にセルフプロデュースできる時代になりました。 だからこそ“本業と〇〇”といった特技を持つモデルは多くなったように感じます。僕も、いつもサポートしてくれる自分の周りの人々に感謝しつつ、モデルと八百屋を頑張りたいと思います」と原田氏は語る。
