眼鏡企業のジンズ(JINS)がスタートさせた「ジンズデザインプロジェクト」は、世界のトップデザイナーとのコラボレーションによって、“眼鏡の定義を問い直し、眼鏡の本質からデザインする”をコンセプトとするものだ。イギリスのプロダクトデザイナーのジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)、ドイツのプロダクトデザイナーのコンスタンティン・グルチッチ(Konstantin Grcic)に続き、同プロジェクトのシリーズ第3弾としてイタリアの建築家ミケーレ・デ・ルッキ(Michele De Lucchi)との協業による眼鏡を発売した。商品はミケーレと彼のスタッフ3人の名前をつけたアセテート製の4型16種。ラウンド、スクエア、ボストン、キャットアイをデフォルメしたデザインで、価格はいずれも1万2000円。従来の「ジンズ」の商品と比較すると高級ラインだ。眼鏡デザインに挑戦した有名建築家の新境地とは。
WWD:「ジンズ」の眼鏡デザインを引き受けた理由は?
ミケーレ・デ・ルッキ(以下、デ・ルッキ):「ジンズ」のことは知りませんでしたが、価格を抑え、多くの人に良質の眼鏡を短時間で仕上げて提供する彼らのフィロソフィーに共感し、面白さを感じたから。建築家の仕事の一つは、人間が日々の生活の中で必要とするものを探求し、形にすることです。その点、眼鏡のデザインは私の従来の仕事と遠いことではなく、むしろ自然に取り組むことができました。これまで建物や家具、橋、時計などさまざまなものをデザインしてきた中で、顔につける眼鏡は人に一番近いものでした。
WWD:眼鏡デザインに対するあなたのアプローチの仕方は?
デ・ルッキ:眼鏡の歴史やデザインの研究を通して、ラウンド、ボストン、キャッツアイ、多角形といったベースとなるタイポロジー(類型)があることがわかりました。それらをベースに64種類のデザインを考案し、私自身が掛けたい眼鏡を思い浮かべたり、事務所のスタッフに掛けさせたりして、私とスタッフ3人の名前をつけた4モデルに絞り込みました。掛ける人の魅力を最大限に引き出す眼鏡であることが重要です。私も「ミケーレ」モデルを気に入っています。
WWD:日本人とイタリア人の眼鏡に対する意識の違いは?
デ・ルッキ:日本とイタリアの気候はそれほど変わらないと思いますが、イタリアの方がサングラスを掛けている人が圧倒的に多い。掛けるだけでなく、胸ポケットからちらっと見せたり、歩くときに手に持ったり、テーブルの上に置いたりして、サングラスが自分を演出する一つの重要なアクセサリーの役割を果たしています。
WWD:日本の建築をどう思う?
デ・ルッキ:街が常に更新される日本と、街中にモニュメントが残るイタリアとは歴史への関わり方が違うと思いますが、日本のモダン建築はとても美しいと思います。安藤忠雄、伊東豊雄、藤本壮介、藤森照信など、気になる建築家が数多くいます。瀬戸内海の直島にある建築も好きです。「ジンズ」の店舗も、眼鏡選びに重要な空間設計ができていると思う。建築だけでなく、イタリア人はみんな日本のエレガントな文化に興味を持っています。ミラノで日本料理が流行しており、私もオーソドックスですが天ぷらとか寿司、鉄板焼きをよく食べます。私のミラノのオフィスの近くにある「オオサカ」が行きつけの日本料理店です。