2019年の消費市場を占う上で、流通関係者の関心を集めているのが「西宮戦争」だ。
19年春、世界最大のスポーツ用品SPA(製造小売り)である仏デカトロン(DECATHLON)が、本格的な日本1号店を阪急西宮ガーデンズ(兵庫)に出店する。デカトロンについては「WWDジャパン」12月24日・31日号に詳細な記事が掲載されているが、低価格・高機能のプライベートブランド(PB)で欧州や中国のスポーツ市場とアウトドア市場を席巻。都心から郊外ショッピングセンターまで幅広い立地に大型店を構え、売上高1兆3000億円に達するガリバー企業である。
このデカトロンに対抗意識をむき出しにするのは、ゼビオやアルペンといった日本の大手スポーツ専門店ではなく、本来は畑違いのはずの作業着専門店のワークマンだ。
ワークマンは作業着で培った機能性をアウトドアウエアに転用したカジュアル業態「ワークマンプラス(WORKMAN PLUS)」を18年9月からスタート。現在、ららぽーと立川立飛店(東京)、川崎中野島店(神奈川)、ららぽーと富士見店(埼玉)、等々力店(東京)の4店舗だけだが、いずれも休日は入場制限をかけるほどの大にぎわいになっている。勢いに乗り、20年3月期までに「ワークマンプラス」を65店体制(既存店の業態転換含む)にするとぶち上げた。
数ある出店計画の中で、局地的に力を入れるのが、3月21日オープンを予定するららぽーと甲子園店(兵庫)である。デカトロンが1号店を予定する阪急西宮ガーデンズと同じ西宮市への出店だ。ワークマンが12月13日に発表したプレスリリースは極めて異例の表現で書かれている。
「(ららぽーと甲子園店に加えて)同日に路面の大阪水無瀬店を『ワークマンプラス』に改装してデカトロン社を迎え撃ちます。両SCの距離はわずか3kmですが、先手必勝で大規模な販促を行います。2店舗だけでは『デカトロン』の大型店にかなわないので、関西地区のワークマン120店舗でアウトドア売り場を強化して包囲網を作ります。1対120の数の優位で『西宮戦争』を制するつもりです」――。
「西宮戦争」といった造語は、普通はライバル企業同士の対立をあおるメディアの常套手段である。当事者としては「お互いに切磋琢磨して市場を盛り上げたい」といった大人のコメントをするのが、常識的な企業の態度だろう。だが、ワークマンはメディアよりも先に自分たちから「西宮戦争」とネーミングし、「先手必勝」「1対120の数の優位」「包囲網」といった刺激的な言葉をプレスリリースに散りばめている。社内向けの企画書で書くことはあっても、マスコミで拡散されることを目的にしたプレスリリースとしては前代未聞である。
戦う前に言葉の限りを尽くして相手を挑発するプロレスに近い。自ら対立構造を作ることで、メディアでの露出を増やすしたたかな計算もあるだろう。現にこの記事もそれにまんまと乗せられている。
ワークマンの栗山清治・社長は11月8日付の繊研新聞のインタビューで、「フランスのデカトロンを手本に、シーン別の売り場作り、コーディネート訴求する見せ方、販促を打ち出し、店舗数を武器に店舗網を拡大します」と語っている。ビジネスの「手本」であり、最大のライバルであるということか。愛憎渦巻く(?)西宮戦争の行方から目が離せない。