「カルティエ(CARTIER)」が、ロンドンのボンド・ストリートの旗艦店をリニューアルオープンした。小売りに集中するべく本社機能をリージェント・ストリートのビルに移した他、バーやダイニングルームなどを備えたVIP専用のスペースが設けられている。
“伝統とモダニズムのマリアージュ“を大切にする同ブランドらしく、改修にあたっては、建物が建てられた当時のウッドパネルや大階段、1920年代に使われていたエントランスの大理石などが生かされている。なお、このアルベマール・ストリートに面したエントランスはずっと閉鎖されていたが、今回の改修を機に再び開けることになった。ローラン・フィニュー(Laurent Feniou)=カルティエUK マネジング・ディレクターは、「旗艦店の役割とは何かを考え直すいい機会だった。建物の骨組みは同じでも、以前とは全く違うブティックに生まれ変わった」と語る。
売り場は白と金色の家具でまとめられ、自然光がふんだんに入るよう設計されている。プライベートサロンや、同ブランドの貴重なアーカイブ・コレクションが展示されているスペースは、ベルベット素材のソファや落ち着いた色合いのファブリックでしつらえられており、個人の邸宅のような雰囲気だ。また、新たに設けられたワークショップでは購入した製品をパーソナライズできるようになっており、現段階では同旗艦店のみのサービスだが、将来的には同社のウェブストアでも可能にしたいとフィニュー=マネジング・ディレクターは言う。
VIP専用のスペースは「ラ・レジデンス(LA RESIDENCE)」と呼ばれ、バー、キッチン、ダイニングルーム、そしてラウンジエリアが設けられている。フィニュー=マネジング・ディレクターは、「お得意さまをもてなす空間であると同時に、セレブリティーがイベントを行うスペースとして使うことも想定している。子どもたちが遊ぶ横で両親が新たなコレクションを楽しむような、ゆったりとした午後に使われた翌日に、女優やアーティストが友人を招いてパーティーを開催するというようなイメージだ。極めてエクスクルーシブなスペースであり、直接入ることはできないようになっている」と説明した。
「カルティエ」は、現代の小売りで重要なのは“エンターテインメント性”だという。そのため、店内の家具や陳列棚は全て可動式で、イベントやパーティー、展示会やミニコンサートなどが開催できるようになっている。ブティックは顧客の大切な瞬間を祝う場所でありつつ、文化的な体験を提供する場所でもあるという構想だ。
また、より幅広い層に向けてSNSの活用やオンライン販売もさらに強化していく。「カルティエ」は、同じくコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)傘下のEC企業ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)が運営する「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」でも高い売り上げを誇っているが、オンラインと実店舗での買い物体験をより洗練された形で結びつけることが狙いだ。「イギリスの消費者はオンライン販売に慣れているが、他にはないサービスを提供したい。例えば、パーソナライズした製品をオンラインで購入したお得意さまに対して、それを当日の午後にベルボーイが自宅に届けるといった演出をすれば、オンラインでも特別な買い物体験を提供できる」。
「カルティエ」は実店舗でも“エクスクルーシブ感”を重視しており、ボンド・ストリート旗艦店のために特にデザインされた“クラッシュ(CRASH)”ウオッチや、今年発表された“ギルランド(GUIRLANDE)”バッグを販売する。バッグはロンドン、ニューヨーク、パリの旗艦店にのみ置き、数も絞っている。今後も、こうした限定品や貴重なアーカイブ製品を店頭に出していき、何度も来たいと思わせる魅力をブティックに与えるという。
英経済はEU離脱に関連して先行きに不透明感があるものの、ハイブランドが集まるボンド・ストリートは、「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」や「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」が新規開店し、「シャネル(CHANEL)」「ディオール(DIOR)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」がリニューアルオープンするなど活気に満ちている。なお、「カルティエ」は同旗艦店のリニューアルに加えて、老舗百貨店セルフリッジ(SELFRIDGES)の売り場も改装する。フィニュー=マネジング・ディレクターは、「さまざまな方法で顧客にアピールしたいと考えている。コレクションに対応した若々しく活発な雰囲気の売り場も、ヨーロッパ競馬のカルティエ賞といった伝統的な社交イベントも大切だ」と説明した。