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“本物”の女性ラッパー、リトル・シムズ 「ラップが立ち向かう手段だった」

 今、カーディ・B(Cardi B)やプリンセス・ノキア(Princess Nokia)、リゾ(Lizzo)など、フィメールラッパーの活躍が目覚ましい。中でもリトル・シムズ(Little Simz)はジャンルを横断したサウンドと真摯なリリックから、あのケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)に「めちゃくちゃドープな若いラッパーがいるんだ。彼女は今一番ヤバい、本物だよ」と言わしめるほどの実力を持つ“本物”のラッパーだ。

 リトル・シムズは、ナイジェリアにルーツを持つ1994年生まれのイギリス人。16歳の頃から楽曲を制作し始め、20歳の時に発表した無料EP「AGE 101」で脚光を浴びると、翌年にはデビューアルバム「A Curious Tale Of Trials + Persons」をリリース。すると同アルバム収録曲の「Wings」がiPhone 6sのCM(一部地域限定)に起用されたことをきっかけに、米経済誌「フォーブス(Forbes)」が毎年発表している「30歳以下の欧州で活躍するアーティスト」と「2016年注目のヒップホップ・アーティスト」に選出され、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)のツアーで前座を務めるなど、グローバルで注目を集める存在となった。

 米ブラック・エンターテインメント・テレビジョンが主催する「BETヒップホップ・アワード」授賞式で、「Who’d thought this would happen teachers would tap me funny when I said I’d make it from rapping(わたしがラップで成功すると言ったら、先生たちはわたしを変な子呼ばわりした)」と熱い気持ちをフリースタイルでラップした彼女に、アーティストを志した理由から、ジャンルレスな楽曲制作の秘訣、「蜜月」と呼ぶ音楽とファッションの関係までを聞いた。

WWD:16歳の頃から楽曲を制作していたそうですが、そもそもラップを始めたのはいつから?

リトル・シムズ:9歳くらいかな。子どもの頃から歌ったり踊ったり描いたりって、何かしらで内に秘めるクリエイティブな要素を表現することが好きだったの。ありがたいことに両親はそういったことにすごく理解があって支えてくれたわ。

WWD:表現方法の1つだったラップで、アーティストになろうと決めた理由を教えてください。

リトル・シムズ:私はロンドン生まれ、ロンドン育ちなのに、黒人というだけでいろいろな思いをしてきた。これは私だけじゃなくて、同じようなバックグラウンドを持つ女の子たちみんながそれを経験して、子どもから大人になる。その転機に差し掛かる頃に、この思いをみんなと共有してインスパイアしたいと思ったの。ただ私は、思ったことを声を大にして伝えるようなタイプでもないし、歌も上手じゃなかった。むしろ、思ったことは日記とか絵に描いて記録するのが好きだったくらい内気だったの(笑)。でも立ち向かわなくちゃいけないと思って、その手段としてラップを選んだ。音楽のジャンルでもヒップホップを聴くことが多かったし、フロウとかライムっていうラップの要素が私にしっくりきたのも大きいわ。

WWD:影響を受けたアーティストは?

リトル・シムズ:ローリン・ヒル(Lauryn Hill)とか、ノトーリアス・B.I.G.(The Notorious B.I.G.)、ジェイ・Z(JAY-Z)ね。

WWD:楽曲制作の際、なんらかのテーマやルールなどの決め事はありますか?

リトル・シムズ:決まったやり方は特になくて、ルールを設けないことがルールかな。ただ何かを吐き出したい衝動に駆られるのが大前提で、とにかくそのときの自分の気持ちに素直になることは大事にしているわ。あとは、かっこよく言うと音に語らせるようにって感じ(笑)。だから何カ月も仕上がらないことも、一晩でできあがることもあるし、曲によって雰囲気が全然違うものになるの。

WWD:バンドサウンドをよく取り入れていますが、ラッパーには珍しくギターやベースなどの弦楽器を弾きますよね?

リトル・シムズ:自分でも思うわ(笑)。でも1人のミュージシャンとして、ベストを目指したいからなの。いまの世の中にはラッパーが溢れていて、その中でいかに自分がエッジが利いて秀でた存在でいられるかって大切じゃない?みんな「ラッパーなんだからギターやベースなんて弾けないでしょ」って思うから、その常識を打ち破りたいの。もちろん自己証明的な意味合いだけじゃないわ。楽しいし、ステージでギターを弾けばロックスターの気分が味わえるしね!

WWD:バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD、カナダのジャズバンドでヴァージル・アブロー初の「ルイ・ヴィトン」のランウエイでショー音楽を生演奏した)とも曲を制作していましたね。

リトル・シムズ:3年前にレッドブルの企画で曲を制作したんだけど、出来がすごくよくて自分のCDにも収録したわ。彼らは音楽にすごい造詣が深くて、一緒に仕事ができていい経験になったと思う。

WWD:とても詩的なラッパーだと感じていて、特に「Wings」ではそれが顕著に表れていると思います。

リトル・シムズ:ありがとう!アイアムノーバディ(IAMNOBODI)ってプロデューサーがビートを作ってくれて、祖母のベッドルームで歌詞を書いたの。一晩じっくり向き合っていたら、ラップよりも“ソング”にしたいと思って。ビートの段階ではもちろんコーラスもないし、キャッチーなフックもないし、延々とバースが続いているだけだったんだけど、一旦コーラスを足してサビのある曲にしてみたんだけど結局うまくいかなかった。それでこの曲はサビが永遠と続くような感じでいいんだって気づいてできあがったの。

WWD:ナイジェリア系というアイデンティティーも楽曲制作に影響していますか?

リトル・シムズ:それは本当に大きいと思うわ。家ではレゲエが常に流れてたのもあって、アフロビートから強い影響を受けている。全てのブラックミュージックが今の私と音楽を形作ってることに間違いないわ。

WWD:ヒップホップを中心に、ブラックミュージックがメーンストリームになってきていることについて思うことは?

リトル・シムズ:シンプルにうれしい!ここ数年、聴く側が惹かれる音楽がたまたまヒップホップを中心としたブラックミュージックなんだろうけど、いまがポップミュージックの転換期であるのをミュージシャンとして実感する。みんながインターネットやストリーミングサービスのおかげでいろいろな音楽を好きなように聴ける環境にいるじゃない?この手当たり次第に聴ける環境が、流行のサイクルをどんどん速くしている。コンテンツを作る側が流行にどう追いついていくかーーこれに対して新しい音楽をテンポよく送り出して答えているのが、ヒップホップなんだと思うの。

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