「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを擁するケリング(KERING)はサステイナビリティーの追求に積極的だ。同社は2018年の世界経済フォーラム、通称ダボス会議で、サステイナビリティーの観点から世界各国の企業を評価する“Global 100 Most Sustainable Corporations in the World”で、アパレルではトップの47位にランクインした。現在欧米では、地球環境保護に貢献できなければ企業としても存続すべきではないという考えがあるほどで、企業はサステイナビリティーレポートを公開し、自社の活動をアピールする。
同社がリードしている理由は、トップのフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)会長兼CEOの考え方にある。それは、「ラグジュアリーとサステイナビリティーは同一であり、サステイナビリティーは私たちにとって不可欠であるだけでなく、ビジネスを成功に導くものである。創造性と革新性の源であり、品質と信頼も保証するもの」というものだ。
ケリングの取り組みの中で画期的だったのは、バリューチェーン内で創出する環境負荷を数値化した環境損益計算書(EP&L:Environmental Profit and Loss)の開発だろう。開発に2年を要し、さらに2015年5月にオープンソース化している。
「EP&Lは人々の考え方とマネジメント法を変えた」
EP&Lは、廃棄物、大気汚染、水使用量、水質汚染、土地利用、炭素排出量の6つの項目と、578の工程、107の素材、126カ国(国によって社会的・環境的背景も異なることを加味)を対象として数値化している。
開発から携わったというマイケル・ボイトラー(Michael Beutler)=ケリング・サステイナビリティー・オペレーションズ・ディレクターは、「EP&Lは人々の考え方とマネジメント法を変えた」と胸を張る。
「EP&Lは限りがある空気や水、人間が暮らすために必要な資源の価値を測定し、当社の企業活動がそれらに与える負荷を理解し、協働することで資源の保全を推進することが狙いだ。私たちはEP&Lを2025年までに15年と比較して40% 削減する目標を立てている」。
17年の負荷の内訳は、原材料と素材の生産に66%、素材のなめしなどの加工に10%、パーツ製作と縫製に13%、ロジスティックスと店舗に10%だ。「当初は、実際に目に見えるもの、つまり最終段階の10%ばかりがフォーカスされていたが、実際には90%がサプライチェーンから生じている負荷である。(EP&Lの開発で)考え方を変えたという点がポイントだ。マネジメント法を変える重要な取り組みだった」と語気を強める。
「ファッションは農業から始まる」
「ファッションは農業から、ジュエリー&ウオッチは鉱業から始まる。だから、原材料の希少性について最も力を入れて取り組んでいる」と言う。そこには気候変動や生物多様性の変化が大きく影響している。
「生物多様性はいったん失われると元に戻すことができない。例えば、ここ10年間のカシミヤヤギの頭数の変化に注目したい。カシミヤのセーターやマフラーを作るには多くのヤギが必要だ。しかし、ヤギは草地を食べ尽くす。そうして食べ尽くされた大地の土壌は緩くなる。ゴビ砂漠の砂嵐はただでさえ強いが、それがさらに悪化する。悪化した砂嵐は北京まで到達し、それを嫌った北京市はヤギの頭数を制限し、結果としてカシミヤの価格が高騰した。将来にわたり原材料を供給していくためには、資源を守って上手に管理する必要がある」と指摘する。そのためにケリングは、ウール、シルク、カシミヤなどそれぞれの素材ごとに、最善のケーススタディを示し、サプライヤーにその方法をシェアしている。
ケリングがサステイナビリティーの分野で高く評価されているのは、あらゆる視点から分析して産業全体の仕組みや考え方から変えていく点だろう。