ファッション

「エス・テー・デュポン」が新たに時計コレクション スタートの理由を社長に直撃

 「エス・テー・デュポン(S.T. DUPONT)」は1872年創業のフランスのブランドだ。日本ではライターのイメージが強いが、起源は旅行バッグをはじめとする皮革製品であり、筆記具やカフスなども販売している。2018年には時計コレクションもスタートした。フランスでは11月から販売しており、中心価格帯は500ユーロ(約6万2500円)。金属が溶けたような意匠のダイヤルを、ドーム型のクリアケースで囲った特徴的なルックスを持つ。来日したアラン・クルヴェ(Alain Crevet)社長に時計について、またブランドの未来予想図について聞いた。

WWD:なぜ時計を作ったのか?

アラン・クルヴェ=エス・テー・デュポン社長(以下、クルヴェ):主力アイテムのライターは緻密な機構を用いており、クラフツマンシップが詰まっている。そして工房は、時計作りの聖地であるスイス国境まで車で10分の距離にある。つまり下地はある。「エス・テー・デュポン」は旅行バッグからスタートしたブランドだが、客の求めに応える形でライターや筆記具、香水など“バッグの中身”も作るようになった。時計もそういったライフスタイルに欠かせないアイテムであり、必然性を感じている。

WWD:どんな時計を作る?

クルヴェ:たくさんの時計ブランドがあり、世の中は時計で溢れている。いずれも美しいが、似たものも多い。だから「エス・テー・デュポン」は異なるアプローチをしたい。好き嫌いは分かれるだろうが、それでよい。そうでなくては新規参入する意味がない。長い歴史と高い技術を持つ時計専業ブランドと真っ向勝負する気はなく、ルックスで提案したい。

WWD:リュウズを左側に設定しているのもルックス重視のため?

クルヴェ:その通りだ。印象的なダイヤルの意匠が相手からも見えるようにした。

WWD:デザイン重視だから、ムーブメントもクオーツでもよいと?

クルヴェ:ユニークなデザインを適正価格で届けたい。セカンドウオッチとして週末やパーティー、気分転換で着けてほしい。フランスでは直営店やEC、ヨーロッパ最大級の百貨店ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)で展開中だ。日本での発売は未定だが、19年春にはと思う。フランス同様、ライターと同程度の価格としたい。

WWD:旅行バッグを起源に持つヨーロッパブランドは多い。他社との違いは?

クルヴェ:純粋に“フランスのブランドであること”だ。エス・テー・デュポンは売り上げ約6000万ユーロ(約75億円)の小さな会社だが、ラグジュアリー・アクセサリー分野では「100%メード・イン・フランス」だ。そして、その全てが手作り。例えば、ペン1本作るのにも60時間を要する。6層にうるしを塗るからだ。ラグジュアリー・ブランドには、ベルトコンベアー式の生産体制で手間を省くところもあるが、われわれはそれをしない。

WWD:直近のビジネス状況についてカテゴリー別に教えてほしい。

クルヴェ:要は、やはりライター事業だ。売り上げの50%を支え、今なお成長している。そして20%をバッグやレザーグッズ、20%を万年筆などの筆記具、10%をカフスやタイクリップ、ライセンスの香水で構成する。

WWD:嫌煙時代にもかかわらず、ライター事業も成長している?

クルヴェ:喫煙者は世界で約1億人。その数は減り続けているが、われわれは喫煙者のためにライターを作っているだけではない10月に発売した細長フォルムの“ザ・ウァン(THE WAND)”はキャンドルの点火用に開発したもので、暖炉や花火にも使える。スタイリッシュなフォームだから、オブジェとしてデスクの上にあっても様になる。

WWD:地域別の状況についても教えてほしい。

クルヴェ:ヨーロッパとアジアが40%ずつを占める。後者は参入して42年を経た日本を中心に中国、韓国がけん引する。残りの20%はアメリカやロシアなど他のエリア。

WWD:必需品ではない、嗜好品を販売することの難しさはあるか?

クルヴェ:ライターのみならず、筆記具の市場も縮小している。若い世代はメモの代わりにスマホやタブレットを使うが、クリエイターは手で書くことが必要だ。フランスでは本物が分かる人のことを“コネッサー(CONNAISSEUR)”と呼ぶが、価値を共有できる層にきちんと訴求したい。ブランドのDNAである、これらの事業をやめるつもりはない。

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