歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひも解けば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができるもの。この連載では1947年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつ取り上げる。奥が深いファッションの旅へようこそ!
連載第1回を飾るのは“レディ ディオール(LADY DIOR)”「ディオール」の数あるアイコンの中でも代表的な存在だ。構築的なフォームに曲線のハンドル、「D」「I」「O」「R」の4文字の華やかなチャームが特徴のハンドバッグは、その存在が知られるきっかけとなったストーリーも華麗だ。
“レディ ディオール”が発表されたのは1995年9月のこと。当時パリではLVMHグループの後援によるセザンヌ展が開かれていた。そこを訪れた故ダイアナ妃にシラク元フランス大統領夫人が“レディ ディオール”をプレゼントしたところ気に入り、すぐにさまざまなバリエーションを注文したという。実際、当時の報道写真を見ると、バーミンガム養護施設を訪問したときにも、アルゼンチンへの公式訪問の際にも、同妃が“レディ ディオール”を手にしていたことが分かる。世界中の女性の憧れの同妃が愛用したことで“レディ ディオール”もまた注目され大ブレイクした。英仏の友好を育んだ“レディ ディオール”。当時の「ディオール」のアーティスティック・ディレクターだったジョン・ガリアーノ(John Galliano)は、イギリス領ジブラルタルの出身である。もしかしたら同妃には、フランスで活躍する同郷デザイナーを応援する気持ちもあったのかもしれない。
実はこのバッグはもともと、“ カナージュ キュイール”と名付けられていたが、同妃への敬意を込めて96年に本人の認証を得て“レディ ディオール”と改名された。最初の名称にある“カナージュ(格子)”もまた、「ディオール」にとって大切なアイコンだ。“カナージュ”は職人の手によりバッグに施されるステッチの柄を指し、由来は47年に開かれた「ディオール」初コレクションで使用した籐椅子にある。ムッシュ・ディオールは、大切な顧客を迎えるために華やかで繊細なナポレオン3世様式の椅子を用意した。籐の網目に着想を得た“カナージュ”はムッシュのエレガントなもてなしの精神の表れなのだ。
時を経て現在、アーティストが再解釈しデザインする“ディオール レディアート”というプロジェクトが行われている。世界の芸術家が“レディ ディオール”をベースに自由に表現するもので、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)やパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)とも親交があったムッシュとアートのつながりがここに息づいている。3回目は、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=アーティスティック・ディレクターの発案により、女性のみ11人で構成。昨年12月に「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2018」で発表し、1月10日からハウスオブ ディオール ギンザの他、世界の主要店で販売される。11人の中には日本人の荒神明香も含まれる。自身の“レディ ディオール”について荒神は「身につける空間であり、歴史やさまざまなクリエイティビティーを含んだアートスペースのようでもある」と話している。