中国インターネットサービス企業大手のテンセント(騰訊、TENCENT)とデータ分析企業カンター(KANTER)が先月発表した報告書によれば、中国の消費の40%以上が2020年までにセンテニアルズ(1997年から現在までに生まれた世代)によるものなると見込んでいるという。これをふまえれば、多くのブランドがこの世代の共感を呼び込み、取り込もうとしているのも不思議ではないだろう。
ジェネレーションZとも呼ばれるこの世代は、その親世代が親しんできたウィーチャット(微信、WeChat)やウェイボー(微博、Weibo)といった従来のSNSから離れ、自分たちの世代をターゲットとするSNSを代わりに使い始めた。特に人気を得ているのは、ショートビデオにフォーカスしたSNSだ。
中国の30歳以下の世代で特に人気の2つのSNS、「TikTok(抖音、Douyin)」と「RED(小紅書、Xiaohongshu)」は2018年、SNSとECが融合したソーシャルコマース(social e-commerce)領域に大きく踏み出した。
ショートビデオSNS「TikTok」を運営するのは、北京拠点のバイトダンス(BYTEDANCE)だ。18年初めにビデオコンテンツをアリババ(ALIBABA)のECサイト「タオバオ(淘宝、Taobao)」にリンクさせる機能をリリースし、その後、「TikTok」のアカウントを持っているユーザーなら誰でも自身のショップを開設できるECサイトを同SNS内に設けた。バイトダンスの昨年の発表によれば、「TikTok」の1日あたりのアクティブユーザー数は1億5000万だ。
一方「RED」は、画像のシェアや商品のレビューから、ファッション、ビューティ、ライフスタイル、ショッピングまでを一つのプラットフォーム内で網羅するSNSだ。ソーシャル・プラス・ビジネスモデルとも称される「RED」は、都市部の19〜35歳の女性をターゲットにユーザー数1億を抱える。特にコスメブランドが、中国でインフルエンサーの役割を果たしているKOL(Key Opinion Leader)をうまく使って成功を収めている。
SNSとECサイトの統合は中国では珍しいことではない。中国のソーシャルコマースに詳しいデジタルテック企業、ファイアワークス(FIREWORKS)のチェンイン・パン(Chenyin Pan)中国地域マネジャーは「(SNSとECサイトを統合するのは)中国のデジタルスタートアップ企業が持って生まれた性質だ。中国で成功するプラットフォームは、デジタル関連の全ての機能を備えていなくてはならない。欧米発のSNSとそれに相当する中国のSNSとの大きな違いは、中国ではオリジナルであることやユニークであることはあまり重視されない点だ。良いアイデアならすぐに何でも“借りる”のが今の中国のデジタル界。では中国のSNSは何で勝負するのかといえば、あらゆる機能を備えて多くのユーザーを獲得し、多くの顧客データを抱えることだ。データがあればあるほど、次にクオリティーの高いものを作ることができるからだ」と解説する。
バイトダンスは18年末、テンセントが運営する「ウィーチャット」が牛耳る中国のメッセンジャーアプリ市場に挑戦するべく、「フリップチャット(FlipChat)」というメッセンジャーアプリを発表すると報道された。一方でテンセントもジェネレーションZの獲得を目指してショートビデオ事業に力を入れており、両者の競争は激しくなるばかりだ。
アメリカ進出を果たした「TikTok」は、アップル(APPLE)の「アップストア(App Store)」で、18年上半期に1億400万ダウンロードを記録し、同期間で世界で最もダウンロードされたアプリになった。米国版「TikTok」は中国版「TikTok」に比べて機能が制限されているが、これは同時に、中国版「TikTok」は欧米の今後のソーシャルコマースの動向を予測するカギになることを意味する。
「アメリカでは『フェイスブック(Facebook)』『アマゾン(Amazon)』『グーグル(Google)』がそれぞれの役割と機能を守っているのに対し、中国のプラットフォームは他のプラットフォームの領域に進出したがる傾向がある。米国版『TikTok』もソーシャルコマースに進出するなら、少なからず障害はあると思う。特に今は『フェイスブック』と『インスタグラム(Instagram)』がSNSとECの統合の初期段階にあるからね」とパン=ファイアワークス中国地域マネジャーは語る。