2019年1月1日に中国で施行された電子商務法(中華人民共和国電子商務法)は、EC市場を広くカバーするため、同国の代理購入業者や越境EC市場が大きな影響を受ける可能性がある。
各国の小売店も打撃を受けることは避けられないだろう。中でも韓国・済州島は上海から飛行機で90分と近く、中国のパスポートを保有していればビザが不要のため(韓国本土はビザが必要)、同島の免税店は代理購入業者がひしめいていた。済州国際空港には、そうした業者が荷物を詰め替えるための専用スペースが設けられているほどだ。米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)が韓国に配備されたことへの報復措置として中国は17年3月に訪韓ツアーを禁止したが、済州島の免税店の業績が悪化しなかったのは代理購入業者向けの売り上げによるところが大きい。しかし、電子商務法の施行に伴って代理購入業者は個人であっても「電子商務経営者」と定義され、中国国内での登録と納税が必要となった。また電子商務経営者が越境ECを行う際は、輸出入監督管理などの関連法律・法規を順守する義務を負う。
ジェフ・アンゼ(Jeff Unze)=ボーダーエックスラボ(BORDERX LAB)戦略的パートナーシップ部門プレジデントは、「この法律はEC市場をより公平にして、中国の消費者を守るためのものだ。ショッピングサイトには怪しい業者も多い。そうした業者を締め出すため、登録や納税を義務化し、偽物を売り逃げするなどの行為をできなくすることが目的だ」と語る。同社は、中国の消費者向け越境ECアプリの「ビヨンド(BEYOND)」を開発している。
また、この新法は例えばアリババ(ALIBABA)の自社ECサイトである「タオバオ(TAOBAO)」などを「電子商務プラットフォーム経営者」と定義し、電子商務経営者によるプラットフォーム内での偽物販売に対して罰金など一定の責任を負わせるものとしている。一方で、個人による越境ECに関しては免税限度額が引き上げられており、一回当たりの免税限度額は2000元(約3万円)から5000元(約7万5000円)に、年間免税限度額は一人当たり2万元(約30万円)から2万6000元(約39万円)になった。
18年9月末頃、中国当局が税関検査を強化するとの報道があり、化粧品や小売り銘柄の一部が値下がりした。新法の施行はこうした動きを加速させる可能性があるが、長期的には“正常化”するので心配はないとする専門家が多い。ロゲリオ・フジモリ(Rogerio Fujimori)RBCキャピタルマーケッツ(RBC CAPITAL MARKETS)アナリストは、「長期的に見れば、新法の施行は小売りセクターにとってポジティブなことだ。並行輸入やそれによる関税回避を阻止し、より公平で健全な市場の育成を促す。中国本土に進出しているラグジュアリーブランドを保護し、緒に就いたばかりのラグジュアリーECの発展をサポートするだろう」とコメントした。