キム・ジョーンズ(Kim Jones)=メンズ アーティスティック・ディレクターによる「ディオール(DIOR)」は引き続き、メゾンの創業者ムッシュー・ディオールに焦点を当てながら、新時代のフォーマルを探求した。
コレクションは、長〜いベルトコンベアが動き出すところから始まった。モデルはランウエイを一歩も歩くことなく、むしろ息さえしていないかのようにピタリと止まり、ベルトコンベアによって運ばれていく。彼らの肌にはファンデーションをたっぷりつけ、パーフェクトスキンに仕上げた。そのイメージは、彫像だ。キムは「ディオール」デビューの19年春夏にはカウズ(KAWS)と、日本で発表した19年プレフォールには空山基(そらやま・はじめ)とコラボレーションしてランウエイの中央に大きな彫像を設けたが、今回はモデル一人一人がそのイメージという。
だからこそモデルは、まるで式典でお披露目される彫像のように、ジャケットやコートに襷(たすき)のようなストールを絡め、ベルトコンベアで運ばれる。ストールは、ジャケットやコートの襟裏のボタンで留め、前合わせのボタンとボタンの間から外に出したり、一部の商品に刻んだスリットから通したり。ストールが流れる様はムッシュー・ディオールが生み出したドレスのようにエレガントだし、肩肘張って着こなすイメージのフォーマルが優しく見える。個々の自由な着こなしを認めるという意味においても現代的だ。同じようなアイデアは、雨よけのようなパーツをボタンで着脱するダービーシューズにも見て取れる。
創業者ムッシュー・ディオールへのオマージュも健在だ。もともとはギャラリスト、つまり画商だったムッシューの歴史に興味を持つキムは、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)らと親交の深かったムッシューのように、アーティストとコラボレーション。抽象的なモチーフをメゾンのテクニックで繊細に描く。フィナーレの総ビーズのプルオーバーは、複数のお針子が累計1600時間をかけて完成させたという超大作。繊細なクラフツマンシップの結晶だが、ストリートライクなプルオーバーで挑むのがキムらしい。
アストラカンへの刺しゅうなどで描いたレオパードやタイガーなどのモチーフも、ムッシューが好んで用いたものだ。ファーは、キムらしくボディバッグに変換したサドルバッグの素材としても使われた。
19年春夏に通じるインサイドアウトのテクニック、19年プレフォールを思い出す光沢あるサテン使いなど、継続性が高いのも特徴だろう。半年で古くなってしまうのではなく、愛用品はいつまでも自然な形で最新コレクションにフィットするよう配慮している。新時代のエレガンスを築くキムの「ディオール」は、フォーマル回帰が印象的な今シーズンの象徴的存在だ。