ファッション

暴動が続くパリで開催中の2019年春夏オートクチュール・コレクション 経営陣の不安と期待

 仏政府への激しい抗議行動が続く中、2019年春夏オートクチュール・コレクション・ウイークが1月21~24日にパリで開催されている。デモの影響はあるものの、懸念されていた招待客のキャンセルなどはほとんどなく、各メゾンは予定通りにコレクションを発表している。

 しかし、開催までに困難がなかったわけではない。1月12日に発生したベーカリーでのガス爆発の影響を受け、シャネル(CHANEL)が擁する刺しゅう専門のアトリエは70人のスタッフが全員退避しなければならなかった。傘下の26アトリエも統括するブルーノ・パブロフスキー(Bruno Pavlovsky)=シャネル ファッション部門プレジデントは、「幸いなことにケガ人は軽傷ですんだが、『シャネル』や他のクチュールブランドから多数の注文を抱えている中で、アトリエをしばらく閉鎖せざるを得なくなった。もう間に合わないと思ったが、フォリー・ベルジェール(FOLIES BERGERE)劇場に併設されている衣装アトリエが場所を提供してくれた他、独立系も含めたあちこちの刺しゅうアトリエが材料を提供してくれたおかげで、注文を全て納品することができた。危機の際に連帯し、協力してくれた関係者全員に心から感謝している」と語った。

 「バルマン(BALMAIN)」が16年ぶりにオートクチュールを復活させることも大きな話題だ。02年にオスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)が同ブランドを離れて以来、初めての参加となる。ハイファッションをより広い層に届けたいというオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)=クリエイティブ・ディレクターの意向により、コレクションは同ブランドの専用アプリでライブ配信される。

 18-19年秋冬オートクチュール・コレクションに新世代スターモデルの一人であるカイア・ガーバー(Kaia Gerber)を起用して大好評を博した「ヴァレンティノ(VALENTINO)」も、デジタル化を推進している。ステファノ・サッシ(Stefano Sassi)=ヴァレンティノ最高経営責任者(CEO)は、「少し前にショーのストリーミングを行ったところ、来場できなかった顧客がそれを見て、ショーが終わる前にドレスを注文してくれた。今でも、オートクチュールは人々に夢を与える力がある。SNSの台頭によってミレニアル世代はオートクチュールに親しみを持っており、大量生産にはない独自のデザインであることに魅力を感じている。ストリーミングは、オートクチュール・コレクションに足を運ぶことのない層にも『ヴァレンティノ』の世界観を届けられる絶好の手段だ」と述べた。

 参加するブランドの多くは、フランスの国内情勢が不安定な中でも業績を伸ばしており、「シャネル」や「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」「ヴァレンティノ」「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」などは18年下期も売り上げが好調だったという。

 「ジャンポール・ゴルチエ」は18年下期に2ケタ成長を記録したが、これはデザイナーのジャンポール・ゴルチエが手掛けたミュージカル「ファッション・フリーク・ショー(FASHION FREAK SHOW)」の効果もある。ソフィー・ワントローブ(Sophie Waintraub)=ジェネラル・マネジャーは、「新しい顧客や潜在的な客にも当ブランドのことを深く理解してもらえる、素晴らしい機会だ」と話した。一方で、同氏はパリの抗議行動が長引いていることを懸念しているという。「暴力的なデモがパリのイメージを低下させ、観光客の足を遠ざけていることは否めない。15年に起きた同時多発テロ事件からようやく立ち直り、観光客が訪れたい街として復活したところだったので、逆戻りはしたくない。それに、こちらから顧客のもとに出向くとなるとコストがかかってしまう」と説明した。パブロフスキー=シャネル ファッション部門プレジデントも、「すでに観光客がパリからロンドンに流れているのを感じる。ラグジュアリーブランドはもちろん、フランス経済全体にとってよいことではないので、政府は抗議行動にしっかりと対応して影響を最小限にしてもらいたい。このまま長引けば、パリの小売業全体の売り上げにかかわってくる」とコメントした。

 1月のオートクチュール・コレクションは、アカデミー賞のノミネートの発表と同時期に開催されるので、各ブランドは授賞式に着用してもらえるのではないかと期待するという。「ドレスがレッドカーペットを飾ることを夢見ないメゾンはない。アワードシーズンを前に多くのスタイリストが来場するので、この時期のコレクションには別種の興奮が生まれる」とパブロフスキー=シャネル ファッション部門プレジデントは述べた。

 そうしたことも含め、オートクチュールは“暮らしの中の芸術”を大切にするフランスにとって欠かせないものだと多くのブランドは考えている。デルフィーヌ・ベリーニ(Delphine Bellini)=スキャパレリCEOは、「オートクチュールには、人々の心をとらえる何かがある。夢を見させる魔法がある素晴らしいもので、街の雰囲気や経済を安定させるためにも必要だ。難しい時期だからといって立ち止まらずに、歩き続けなくてはならない」と語った。

 コレクション・ウイークの最終日である24日の午後(現地時間)には、仏女優カトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)が所有する「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のドレスやアクセサリーなどが、オークションハウスのクリスティーズ(CHRISTIE’S)で競売にかけられる。また、エイズ撲滅活動を行う仏団体シダクション(SIDACTION)によるチャリティーパーティーも同日に開催される。

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