エディ・スリマン(Hedi Slimane)=アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターが「02」、つまり「第二章」と銘打った「セリーヌ(CELINE)」2019-20年秋冬メンズは、引き続き“ザ・エディ”と呼ぶにふさわしいコレクションだ。
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19年春夏にはピタピタのスキニーだったシルエットは幾分膨らみ、特にチェスターやトレンチ、モッズコートは1サイズオーバーくらい。ボトムスは腰回りに2タックを刻んだキャロットシルエットのクロップド丈だ。けれど基本は引き続き“テッズ”、つまり不良少年が背伸びした雰囲気のテーラード。色は漆黒が基調だし、ネクタイはナロー、靴はポインテッド、そしてモデルは前髪パッツンのスキニー。誰が見てもエディのクリエイションだと分かるし、率直に言えば「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「ディオール オム(DIOR HOMME)」でも同じようなスタイルは何度か見てきた。賛否両論、いや、おそらく「否」が「賛」を上回るくらいのセンセーションを経てなお、エディはやはりエディだった。
正直、前回巻き起こった「これは、『セリーヌ』なのか?否か?」的議論は、もう意味がないと思っている。前任のフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)ファンは、エディ「セリーヌ」に落胆するが、彼を起用したLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)からすれば、そんなリアクションは想定内。リスクを犯してなお変革したいワケで、その点においてエディは期待に応えている。
■「ルイ・ヴィトン」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
■「ディオール」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
■「ロエベ」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
■「ベルルッティ」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
■「ジバンシィ」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
■「ケンゾー」2019-20年秋冬パリ・メンズ・コレクション
エディ起用の理由は、「セリーヌ」単体で考えるとクエスチョンマークが離れないが、グループ全体で考えると納得できる。LVMHが擁するメンズも抱えるパリブランドは、ポップなアクセサリー主体のヴァージル・アブローの(Virgil Abloh)による「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、クチュールブランドらしいエレガンスを追求するキム・ジョーンズ(Kim Jones)の「ディオール(DIOR)」、ファッションをクラフトの力でアートと融合するジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の「ロエベ(LOEWE)」、王道エレガンスなクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)の「ベルルッティ(BERLUTI)」、創業者由来のシルエットをモダナイズするクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)の「ジバンシィ(GIVENCHY)」、そしてアジアンカルチャーを融合してダイバーシティーを体現するウンベルト・レオン(Humberto Leon)&キャロル・リム(Carol Lim)の「ケンゾー(KENZO)」。このラインアップを考えるとエディのロックマインド漂うフォーマルモードは、LVMHが網羅していなかった“穴”だ。メゾンの若返りを図りつつ、“穴”を埋めるにはどうしたらいいのかーー?その答えの1つが、エディ・スリマンだったのだろう。
ただ、その戦略が思惑通りの結果を導くか否かは、現段階においては不透明だ。エディが「ディオール オム」でセンセーションを巻き起こしたのは、すでに20年近く昔のこと。当時から大きく変わらないエディのスタイルは今、ストリート全盛のメンズ業界においては、コアと遠いところに位置している。フォーマルでも、ストリートシルエットの「ルイ・ヴィトン」や流れるようなムーブメントを探る「ディオール」、今シーズンでいえばジャケットにダウンやナイロンなども用いて未来を見据えた「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の方が“今っぽい”。“ザ・エディ”ではあるが、メンズもウィメンズも今のメジャーな時代感とは遠いところに位置する「セリーヌ」の19年春夏の立ち上がりは、バッグのローンチ直後こそ盛り上がったが、以降は正直伸び悩んでいるとの話もある。
■エディ効果でスキニー復権なるか 「セリーヌ」19-20年秋冬メンズショーの来場者はやっぱりピタピタが多かった
ただ一方で、特にメンズにおいてはエディのファンはまだまだ健在。抜群の知名度とカリスマ性、そして男なら誰もが一度は憧れるロックなスタイルを誇るからこそ“ファン予備軍”が多いのも事実だ。「WWD JAPAN.com」においてもコレクションのPVは高く、SNSでのインプレッションもハイスコア。ショー会場には、それが「セリーヌ」か否かは定かではないが、早速“ザ・エディ”なスタイルが現れた。メンズ全体のムードとしては、ナイロンブルゾンやダウンはちょっと食傷気味で、ジャケットやコートが着たい雰囲気になっている。特に大人世代はそうだ。エディテイストながら、実はタイムレスな定番が多い今季の「セリーヌ」には、大きなチャンスもある。
この胎動がどこまで大きなうねりとなるのか?今は時代感の薄いスタイルが、三たび時代そのものに昇華するのか?見極めるには、まだ時間が必要だ。