現在建て替え中で今秋に開業を控える渋谷パルコは、リアルとバーチャルを融合した「次世代デジタルファッションビル」を目指す。牧山浩三パルコ社長が1月23日に開幕した日本ショッピングセンター全国大会の基調講演「共生・共創の時代にパルコが都市で果たすべき役割」で明かした。
新生渋谷パルコは延床面積6万3830平方メートルで、1~10階までを使う立体街路が特徴だ。かつてのパート1とパート3、間にあった渋谷区の区道を含めて一体開発しており、保留床を買ったヒューリックとともに変革しながら、商業とオフィスの境目がなくなるような設えを構想しているという。SCビジネスフェアのコーナーでは、新生・渋谷パルコの模型も展示された。
その最新店舗には、「さまざまな実験的な要素を取り入れる」。一つは、VRショッピングコンテンツだ。2018年にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催の音楽、映像、インタラクティブの祭典「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)」や、渋谷パルコに隣接するSR6に出店している「ランウェイチャンネルラボ 渋谷」でもデモンストレーションを実施したもの。リアルの店頭にはない商品までVR上でチェックし、買い物までできるような新しいショッピング体験を提供する。
二つ目はVR関連のスタートアップ企業のサイキック・ブイアール・ラボ(Psychic VR Lab)、ウェブ制作会社のロフトワークスとの共同プロジェクト「ニュービュー(NEW VIEW)」だ。誰もが3次元空間を表現し、それを楽しむ時代に向けて、新たなクリエイティブ表現と体験のデザインを開拓する実験的プロジェクト、コミュニティとして、渋谷パルコでの展開を見据えて2018年にスタート。最高2万ドル(約218万円)の賞金を獲得できるアワードなども実施してきた。SCビジネスコーナーのデモンストレーションコーナーでは、架空の渋谷のスクランブル交差点の中を歩いたり、目的地に飛んだりしながらショッピングを楽しめるようなコンテンツも提案していた。
三つ目は、パルコが独自開発した自走ロボット「シリウスボット」の導入だ。「ICタグの普及により、従来8時間かかっていた棚卸が8分でできるようになっている。パルコは自社でショップの商品を持っているわけではないが、デベロッパーとしてツールを提供することで、テナントの支援をしたい」と牧山社長。さらに、チームラボと共同開発して渋谷パルコで展開していた、デジタルインフォメーションウォールの進化版の展開も計画しているという。
牧山社長は講演の冒頭、「環境が激変している。SDGsなど、サステナブルな状況をどう作るかを念頭に置き、各々が少しずつ努力しながら、デベロッパーとしてテナントとの共生・共創によって世の中を明るく楽しく次につなげていくのがパルコの役割だ」と説明。1969年に池袋にあった百貨店跡地をパルコの1号店として開業した際には「ビルの中に人々と店が集まる街を創った」といい、今後も「リアルでもバーチャルでも人々が集い、時間と空間を共有する場所としてパルコが時代に合わせて共創していく」と話す。
さらに、これまでのクリエイターとの協業やインキュベーションの歴史などを披露。さらに、東京FMスペイン坂スタジオなどを拠点に情報発信も行ってきたことを説明。「新生パルコでは、街を闊歩する一番かっこいい人達が集まる場所。恋人たちのサードプレイスにしていく。『これが企業パルコのショールーム、ショーケース』というものにしていきたい」と意気込んだ。
なお、工事用の囲いに描かれた大友克洋による「アキラ」のアートウォールは、もう一度新しいバージョンが披露されることが決まっているという。
松下久美:「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力小売企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルもカバー。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)