ファッション

新生「クレージュ」が脱プラスチック 新体制でリブランディング

 フランス発の「クレージュ(COURREGES)」は、18年9月にパリ旗艦店で行った2019年春夏コレクションで、ブランドの代表的なビニール生地を含むプラスチック素材の廃止を宣言した。ビニール生地の代わりにリネンを100%使用したジャケットをはじめ、再生コットンや再生ナイロンなどのサステイナブル素材を用いたウエアやアクセサリーなどを発表。ショー直後には、会場の旗艦店横に“La Fin du Plastique(プラスチックの終わり)”と題したポップアップストアをオープンし、本社が保有していた最後のビニール生地の在庫を使ったバッグやキャップなどの商品を販売している。

 この変化の背景は18年に、最高経営責任者(CEO)とアーティスティック・ディレクターが就き、その後に親会社が変わり新体制になったことがある。新CEOには「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」や「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のセールス担当として両ブランドの卸の成長に大きく貢献したクリスティーナ・アーレアス(Christina Ahlers)が就任し、デザイナーは「アクネ ストゥディオズ」「ジル・サンダー(JIL SANDER)」などを経たヨランダ・ゾーベル(Yolanda Zobel)に、新親会社は「グッチ(GUCCI)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを擁するケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=会長兼CEOの一族のプライベート投資会社であるアルテミス(ARTEMIS)になった。またアイコニックなロゴも刷新し、先頃「セリーヌ(CELINE)」や「バーバリー(BURBERRY)」の新ロゴも手掛けた有名グラフィックデザイナーのピーター・サヴィル(Peter Saville)が担当した。

 来日したアーレアスCEOに、今後の戦略や日本のマーケットについて聞いた。

新体制のショーに込めたメッセージは
“未来はあなたの行いから生まれるもの”

WWD:なぜ新体制のデビューショーで脱プラスチック宣言をしたのか。

クリスティーナ・アーレアス=クレージュCEO(以下アーレアス):新たなメンバーでブランドのDNAを見直したとき、“未来”について考えることから始めた。ショーのテーマにもなった“The Future is behind you”には「未来はあなたの行いから生まれるもの」というメッセージを込めている。1960年代当時のプラスチックは革命的な素材で、明るい未来を表現するのに適していたけれど、2019年現在のプラスチックは世界的な環境問題になっている。世の中はプラスチックに溢れていて、消費することに責任を感じる今、私たちが行動を起こすときだと考えた。でも本来「クレージュ」が持つ楽観的なイメージを失わないように、新鮮なアプローチでファッションを提案したい。そのため、商品の素材やパッケージにサステイナブルな素材を選ぶだけでなく、社内でも意識改革が進んでいる。資源を無駄にしないこと徹底するために、クレージュのパリのオフィスではペットボトルの使用を禁止し、タンブラーを持参するようにしている。

WWD:ショー後にポップアップショップを開いた理由は?

アーレアス:ショーで発表した商品が販売されるのは5~6カ月後だけれど、お客さまにブランドの新しいビジョンをいち早く体験してもらいたかったから。しかし、次の日に大量のゴミを出すようなイベントはしたくないと思って、本社が保有していた最後のビニール生地の在庫を使った商品や、再生コットンを用いたTシャツ、再生ナイロンを使ったバッグなどを販売している。60年代に「クレージュ」が発表して代表的だったストッキングやタイツ商品などの“セカンドスキン”アイテムは、フランスの老舗レッグウエアのジェルブ(GERBE)と協業した。当時は肌の色を変えられることも“未来的”なアイデアとして提案していた。店舗デザインは、アーティストのクリストフ・ハーマイド・ピアソン(Christophe Hamaide-Pierson)にお願いした。

WWD:生地の開発も行なっているのか。

アーレアス:ヨランダを中心にサステイナブル素材のリサーチと開発を行っている。だけど、今日私が着ているのは過去に販売していたビニール素材のジャケットよ(笑)。ビニールは軽くて、光沢感とレザーのような雰囲気があって、日常からパーティーまで着用できる汎用性もある。その魅力を非プラスチックで表現できるような新たな素材を生み出していきたいと思っているわ。

WWD:ピーター・サヴィルによる新ロゴも発表した。

アーレアス:シグネチャーであるマークはaとcを合わせた形。今見直すと60年代のビンテージの雰囲気が残っていて、刷新が必要だった。新ロゴは「クレージュ」が有名になる前に使用していたロゴ案が元になっているの。

WWD:アーティスティック・ディレクターのヨランダはどんなデザイナーか?彼女に期待していることは?

アーレアス:私と彼女は「アクネ ストゥディオズ」時代の同僚だけど、当時彼女はストックホルム拠点で、私はパリのオフィスにいて全く関わる機会がなかった。でも、同じ会社に所属していたという共通点に特別なつながりを感じたわ。「クレージュ」で初めて話をしたとき、ヨランダは「クレージュ」のことを本当に理解していると思った。それは歴史を知るということだけでなく、今後のビジョンを持っていたところね。彼女は好奇心が強く、物事を多面的に分析して組み立てていく力があって、普段は音楽やアートを楽しむ、今を生きるモダンな女性。すでにデビューショーで素晴らしいクリエイションを見せてくれたけれど、今後は彼女らしさをもっとブランドに反映してほしいと思う。

エモーショナルな記憶があり
母、娘、孫と幅広い世代に愛されている

WWD:今の「クレージュ」の顧客はどんな人?リブランディングによってターゲットは変わるのか?

アーレアス:現在のロイヤルカスタマーは1960年代にブランドを知った方が多く、「クレージュ」以外は着ないというくらい忠誠心の高いマダムたち。パリ旗艦店の上階にオフィスがあるので店をのぞくと、母、娘、孫と幅広い世代の方がそろって来店されている。お客さまと話をしたときに「『クレージュ』を着ていたときに今の夫に出会った」「母が『クレージュ』を着て、結婚式を挙げた」などブランドにまつわる素敵な思い出を教えていただいてエモーショナルな記憶に結びついていると思った。新体制ではこれまでのお客さまに加えて、年齢や性別の枠にとらわれないお客さまに愛されるように努力を続けたい。

WWD:パリ旗艦店のリニューアルや今後の出店計画は?

アーレアス:店舗については新たなアプローチを構想中で、パリの旗艦店のリニューアルが最優先。パリ旗艦店は店舗とアトリエがあるブランドの中心地であり、歴史的な場所。ショー会場として使用した際にはリニューアルの第1弾として、家具を解体してディスプレーし、中庭にも手を加えた。「クレージュ」は国際的なブランドだけれど、出店を増やすのではなく、店舗の内容を濃くしてそこから価値を発信していく。持続可能なビジネスを進めて行くために一つ一つ慎重に考えていきたい。

WWD:日本の市場をどう分析しているのか。

アーレアス:私に日本について語らせると、長くなるので危険よ(笑)。前職では2カ月に1度は来日していて、個人的にもお気に入りの国。日本はバイヤーもプレスもお客さまもファッションに情熱を持っていて、服の生地や品質、ビジネスニュースの知識がある人が多い。驚いたのは、日本人バイヤーたちに2枚のコットンシャツを見せたときに、どちらが日本製かイタリア製かを触るだけで当ててしまったことや、販売員でもファスナーについて15分以上語れてしまう人に出会ったこと。他の国では細かいディテールまで気にしていない人がほとんどだから、日本人の審美眼やブランドへの愛情には感銘を受ける。特に私は日本の販売員が大好き。彼らはファッション業界で働いていることや、そのブランドや店舗に携わっていることを誇りに思っていて、彼らこそがブランドのアンバサダーだと思う。接客や商品の包み方など一つをとっても、その卓越したおもてなしは他の国の小売業にも大きな影響を与えているわ。出張の機会から多くのことを学んだわ。日本の真夏の暑さを知らなければ、どのような商品が必要とされるのかわからなかったからね(笑)。そういった知識をヨランダに共有して行くことが私の役割ね。

WWD:日本では「クレージュ」の地名度が高い。

クリスティーナ:ライセンスビジネスで知名度が高まり、特にフランスと日本にポテンシャルを感じている。日本人に話を聞くとイトキンが販売していた「クレージュ ヴァンテアン(COURREGES 21)」を知っている人が多い。服にとどまらず、ハンカチから「クレージュ」の自転車まで販売されていることを聞いて、広く愛されているブランドであることが分かった。

WWD:ビジネスプランも教えてほしい。

アーレアス:柱となる卸、小売、ECをしっかり成長させていくこと。今の時代は小売と卸を分けて考えるのは難しい。店をショールームのように活用してECで購入される方もいれば、ECをカタログにして店舗にいらっしゃる方、セレクトショップでブランドを発見して直営店に足を運ぶ方もいて、全てがつながっている。卸に関しては、次の19-20年秋冬が新体制での始まりだと思う。セレクトショップにはブランドをインキュベートする力があり、ショップオーナーとバイヤーは業界のオピニオンリーダー。ECは利便性が高く、24時間営業だからブランドへのアクセスのしやすさが全て。一方で、プレスの力も信じているわ。紙媒体やデジタルメディアとも協力し合って、工夫して表現してことが大事ね。ファッションビジネスは美味しい料理を作るのと一緒。正しい食材と正確な量でなければ美味しくならないように、一つが欠けるとうまくできないものだと思う。

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