H&Mの創業一族による非営利団体であるH&Mファンデーション(H&M Foundation)は、SDGs(2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標)の実現に向けたポジティブな変化への起爆剤になるべく、さまざまな分野の人々と協業している。中でも、地球環境の負荷を減らす廃棄物ゼロの“100%循環型のファッション産業”に向けた取り組みが目を引く。昨年発表した、HKRITA(香港繊維アパレル研究開発センター)と共同開発したコットンとポリエステルの混紡素材を熱処理で分離させる技術が注目を集めたが、実は、その技術開発を支えているのは信州大学と愛媛大学だという。その共同開発の責任者である同ファンデーションのエリック・バン(Erik Bang)=イノベーション・リードに話を聞いた。
WWD:廃棄物ゼロの“循環型のファッション産業”に取り組むに至った経緯は?
エリック・バン:世界人口は増え続けており、2030年にはミドルクラスの人口が30億人を超えるとも言われている。資源は限られており、その限られた資源で、人々の消費を満たせるようなシステムを作ることが必要だと考えた。デザイン、素材、縫製、物流からリサイクルまですべての工程の見直しを図っているところだ。そもそもこの見直し作業はファッションだけではなく、食べるものや通信機器などすべての消費について行う必要がある。
WWD:取り組むべき課題は多いが、特に何を問題視しているか。
バン:ファッション産業における問題は大きく3つある。水と資源とリサイクルで、特に今取り組んでいるリサイクルに関しては、「いらなくなった服はゴミ」という認識が強いが、まずはその考え方を変えていく必要がある。
WWD:H&Mでは古着回収を行っているが?
バン:循環型ファッションを実現する手段であり、また、服を新たな資源として生まれ変わらせるという意識を消費者とシェアする目的もある。現在日本でリサイクルされたものは仕分けを経て、6割が売られ、3割はリメイクされる。1割は車のシートなどに再利用される。
WWD:古着回収の仕組み作りは難しいと聞く。
バン:技術によっては資源となり得るものでも、国や地域によっては廃棄物として処理されれば商取引が難しくなる。リサイクルが進むスウェーデンであっても自治体によって回収のルールが異なる。古着を廃棄物ではなく資源ととらえて、商取引しやすい仕組みに変える必要性を感じている。
WWD:先日発表したコットンとポリエステルを熱処理で分離する技術が革新的だった。
バン:実は、この熱処理は信州大学と愛媛大学の研究があって生まれた。今日もこれから信州大学で打ち合わせがある。この技術のカギを握っているのは日本の技術だ。
WWD:産業化に向け研究を続けていると聞くが、進捗状況は?
バン:1日100kg程度がリサイクルテキスタイルに生まれ変わっている。製品化に向けて実験的段階でデータを集めているところだ。年内には1日1トン程度を生産できるレベルにする。
WWD:現在、他に取り組んでいることは?
バン:リサイクル時に染料を取り除く技術の開発に取り組んでいる。これができれば、糸まで戻した際に再利用しやすくなるからだ。