2月1日に日本と欧州の経済連携協定(EPA)が発効した。日欧貿易の関税撤廃が大きな柱になる同協定は、ファッションビジネスにも大きな影響を与えそうだ。いったい何がどう変わるのか。
まずは簡単に関税の変化を整理しよう。日本と欧州間のアパレル貿易は、日本の欧州からの年間の衣料品輸入が約1637億円、日本から欧州への繊維品輸出が約102億円(2018年1〜12月)と、圧倒的に輸入が多い。コートやジャケット、シャツ、ボトムス、スカートなどのアパレル製品の関税は、原則として即時撤廃になる。ただ、関税の額は7.4〜12.8%と、もともと低い。影響が大きいのは、毛皮やレザーなどを使ったウエアやアクセサリーだ。これまで毛皮のコートは20%、革靴は21.6%〜30%かかっていた関税が、一部のアイテムは11〜15年かけて漸減し、最終的に撤廃される。革靴は関税撤廃までの時間がかかるようにも見えるものの、EPAの発効と同時に日欧間の貿易は実質的にクオーター制度が撤廃される。
スーパーなどではワインの関税撤廃を受けて、還元セールを行っているが、ファッション分野ではどうなるのか。大手百貨店の三越伊勢丹ホールディングスは「特に影響はない。シューズ売り場も店頭にある商品は発効前の買い付けなので変わらない。変わるとしても半年後、1年後。ただ燃料費の高騰などで相殺され、変わらないことも十分考えられる」という。高級インポートシューズを販売するプレステージシューズは「取扱いのブランド品については、影響は少ない。還元フェアなどのイベントも未定」と語っており、ファッション分野では、還元セールなども含め直近で何か大きな影響はなさそうだ。
人気シューズのインポーターに直撃
日欧EPAは、大手企業から中小企業まですべてに関係する。実際にファッションビジネスの現場で輸入業務を行う企業はどう受け止めているのか。セレクトショップなどで人気のスロベキア発のハンドメードスニーカー、「ノヴェスタ(NOVESTA)」の輸入販売業務を行うクラインシュタインの小石祐介・代表に話を聞いた。
WWD:いつから店頭価格に反映される?
小石:現時点だと実効税率がまだ高めなので、まずは実際にレザースニーカーを輸入してみて、どの程度の影響がありそうかを試算する必要があります。消費税の増税もあるので様子を見ながらにはなりますが、2019年秋冬AW〜20年春夏の期中の展開からは多少ですが価格に反映したいとは思っています。ただ現状でも採算を度外視して上代(=小売り価格)設定している商品もあり、その場合は据え置きになりますが。
WWD:店頭価格に反映させない企業も多いようだが?
小石:レザーグッズは、原材料費に加え欧州では人件費の高騰もあり、全体的にコスト増のトレンドです。また、実際にネットで販売している並行輸入品に対抗するため、すでに通常よりも掛け率を抑えて店頭の値付けをしていることもあります。それに戦略的にあえて高価格帯を維持させるという考え方もあるかと。
WWD:関税はCIF(=Cost Insurance and Freight、運賃保険料込み条件)価格に対してかかると思うのが、それは店頭価格のだいたいどのくらい?
小石:革製品では通常どの会社もクオーター制度(割当制度、一定の数量以内であれば税率が優遇される制度)を活用していると思います。EPAの発効により上代で3〜5%程度は下げられるところもあるのではないかという気がします。製品にもよりますが。それに実際はブランドや店舗によっては輸入代行業者を使っている会社もあるので、その分のコストも減らせるとなると、実態は値下げ幅がもう少しあるかもしれないです。
WWD:シューズ販売への影響は?ポジティブorネガティブ?
小石:欧州ブランドのインポート商品を値下げする店舗が増えてきた場合、国内ブランドにとっては競合が増えそうだなと、気になっています。「ノヴェスタ」のようなファクトリーブランドの場合は、ややポジティブ面大きいかと思いますね。国内ブランドが値下げ合戦を行ってこないかは注視しています。
WWD:リテールプライス全般は?
小石:変更する場合は、卸売先の様子を見ながら。展示会で価格設定をしているので、実際は価格設定後の半年後のリリースで徐々に変えるという流れになると思います。
WWD:今後の影響をどう見る?
小石:レザーグッズに関して言えば、関税割当の取得のために毎年経済産業省に行く必要がなくなるというのは大きいかもしれないですね。小さい企業であれば、不慣れな書類の準備は、それなりの手間がかかるので。それと輸入代行業者は大変かもしれないですね。小売りに関して言えば、越境ECとどう向き合っていくか、戦略を再検討する必要がありそうです。値下げをしないで放置すると、海外のECで買ったほうが安いというケースが増えるからです。短期でそうでもなくても長期的に下げ圧力はあると思います。
WWD: 日本ブランドへの影響は?
小石:メード・イン・ジャパンは高品質、グッドデザインのわりに手頃な価格で提供しているからこそ、評判がよいところもあるはず。欧州製品に関税がかからなくなれば、価格以外の部分、ブランディングでも競合になるので、この点をどのようにやっていくか気になります。値下げ合戦に持ち込むと共倒れなので。逆に国内ブランドも海外に出ていくチャンスではありますよね。