スニーカーの宿命ともいえるのが、加水分解。アウトソールに含まれるポリウレタンが空気中の水分と反応して分解し、いずれはアッパーからソールが剥がれてきてしまう。免れることはほぼ不可能なため、スニーカーの寿命はもって数年とされてきた。だが、そんな常識を覆す東京・国分寺の靴修理店「リクチュール」が4日、渋谷に移転オープンする。スニーカーに革靴用のソールを付け替えるユニークな修理がSNSで話題となり、近年はカスタマイズとしての利用も増えているという。廣瀬瞬オーナー(32)は「靴の修理店の枠にとどまらず、スニーカーのカスタマイズの文化を根付かせたい」と意気込む。
インスタにアップした1枚がきっかけに
靴修理のフランチャイズ店でのアルバイトを経て、2013年に前身となる靴修理店「国分寺シューズ」を開業。「当時は(革製品修理専門店の)『ユニオンワークス』のような、あくまで修理のスペシャリストを目指していた。店舗は駅直結で立地も良かったが、大手のチェーン店との競合があり厳しかった。修理の技術には自信があったが、それだけで差別化することは難しいと痛感させられた」という。初めてスニーカーのカスタムをしたのは、オープンから2年後の15年。「普段履いていたのも革靴ばかりで、たまに履くスニーカーがなんだか軽すぎて頼りない」と感じ、「コンバース(CONVERSE)」の“チャックテイラー”に「ダナー(DANNER)」の革靴のソールを縫い付けたモデルを制作しインスタにアップしたところ、すぐにオーダーが入った。
「いつまでも履ける」ことの価値
それから徐々にスニーカー修理の割合が多くなり、今では注文の半数以上に。新品のスニーカーを好きなソールに付け替えてほしいという純粋なカスタマイズの依頼が増え、渋谷区などに暮らす感度の高い客や、SNS経由での外国人の来店が多くなった。「いつの間にか、わざわざ遠くから来てくれる人ばかりになっていた。スニーカー好きが集まる場所で、もっと需要に応えていきたいと思った」と移転の理由を明かす。ソールの付け替えは2万5000円程度と、新しいスニーカーを買う方が安い場合もある。「見た目のかっこよさや、歩きやすさなどの機能面の理由もあるが、お気に入りのスニーカーをいつまでも履けることに価値を感じてくれているのだと思う」
カスタムへの考え方も変化
カスタムに対するブランドの考え方の変化も感じているという。「最近は誰もが知るようなブランドの公式イベントに招待され、オリジナル商品にカスタムを施したこともある。以前では考えられないことだ」。同様のサービスを手掛ける修理店も見られるようになり、差別化が課題となっている。服の生地などを使ってアッパーをカスタマイズした商品の販売も検討しているという。「オリジナルを尊重しつつ、自分らしくカスタマイズする楽しさを提案できたらと思っている。スニーカーの新しい付加価値を生み出せるよう、トライしていきたい」