東京藝術大学出身の常田大希が2015年に前身となるSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)の活動を開始。その後メンバーチェンジを経て、常田大希(Gt.Vo.)、勢喜遊(Drs.Sampler)、新井和輝(Ba.)、井口理(Vo.Key.)の4人体制へ。17年4月、バンド名をKing Gnu(キングヌー)に改め、17年10月にはファーストアルバム「Tokyo Rendez-Vous(トーキョーランデブー)」を発売。昨年はTVアニメ「BANANA FISH」のエンディング曲として「Prayer X」を楽曲提供し話題となり、今年1月16日にセカンドアルバム「Sympa(シンパ)」でメジャーデビューを果たした。音楽番組「バズリズム 02」(日本テレビ系)で、音楽業界人が選ぶ恒例企画「今年コレがバズるぞBEST10」で1位となるなど、今年ブレイク必至の4人組だ。彼らは何を考え、どこを目指すのか――今回、リーダーでもある常田に話を聞いた。
WWD:もともとソロでやっていた常田さんがバンドを始めた理由は?
常田大希(以下、常田):自由にやりたいことをやるためには、まずは日本で有名になることが必要だなって思ってKing Gnuは始めました。“King Gnu”っていうバンド名も、動物のヌーが少しずつ集まって、大きな群れになっていくところから名付けていて、バンドの方もいろいろな人たちを巻き込んで大きくなっていきたいなと思っています。それで日本で有名になるために必要なメンバーを集めたって感じです。
WWD:常田さんや井口さんは東京藝大出身だったり、ドラムの勢喜さんは両親がプロのミュージシャンだったりと音楽エリートが集まっている印象だが?
常田:それぞれのメンバーに声を掛けた理由は違っていて、ボーカル&キーボードの(井口)理はずっとJ-POPとかを聴いてきて、多くの日本人に受けいれられる歌い方ができるのが魅力。日本で活動していくなら、そういう歌い方ができるボーカルが必要だと思って声をかけました。ベースの(新井)和輝やドラムスの(勢喜)遊は俺と同じブラックミュージックが好きで、2人ともセッションマンでやっていて、好きな感じも似ている。リズム隊はブラックミュージックの下地をしっかりと出していきたいと思って声をかけました。楽器隊の3人(常田、新井、勢喜)はブラックミュージック、理はJ-POPと、好きな音楽は異なるんですが、それがKing Gnuの多面性になっています。
1 / 4
WWD:井口さんとは幼なじみだったとか?
常田:そうですね。小学校から一緒でした。でも、だからといって当時はそこまで仲がよかった訳ではなく、一緒の大学に行ったのも知らなかったぐらい。俺は1年も通わずに辞めてるので。辞めてから文化祭に呼ばれて演奏しに行ったら理がいて、そこから一緒にやりだした感じです。
WWD:常田さんが東京藝大(チェロ専攻)で音楽を学ぼうと思ったのは?
常田:ポップスのシーンってオーケストラのサウンドがまだまだうまく使えていないと感じていて、そこに発展の余地があると思って東京藝大に入学したっていうのも、なきにしも非ずです。入学前からバンドもずっとやっていたので、東京藝大に入って違うなと思ってバンドを始めた訳ではけ決してないです。
WWD:もとからバンドをやっていたら、そこからさらに音楽をしっかりと学ぼうと思う人は少ないのでは?
常田:日本のバンドシーンは音楽への探求心が少ないですよね。そこがつまんないなって思ってます。
WWD:東京藝大というとアカデミックな印象だが、バンドをする人は多い?
常田:俺らの世代は、東京藝大に入って現代音楽をやっていても、このままだとやばいって意識もあって、アカデミックにやっていたやつらも社会とのコネクトは意識しています。例えば大学の同期で昔一緒にやったりもしていた石若駿はジャズドラマーで、ラッパーのKID FRESINO(キッドフレシノ)のバンドなんかでも叩いたりもしてますし。正直、現代音楽だと夢が見られないですよ。
WWD:大学を辞めた理由は夢が見られないから?
常田:いや、入学した時から辞めるつもりでした。音楽って抽象的な世界なんで、田舎から出てきてこれがカッコイイって言っても相手にされないじゃないですか。でも、東京藝大出身っていえば聴いてもらいやすくなる。だから、そこはすごく考えて、自由に生きるために藝大に入ったって感じです。もちろん先ほど言ったオーケストラサウンドに興味があったのも入学理由ですけども。
J-POPもブラックミュージックもKing Gnuだから両立できる
WWD:1月16日にセカンドアルバム「Sympa」でメジャーデビューしたが心境の変化はあった?
常田:もともとKing Gnu自体は大きくなってなんぼみたいな気持ちだったので、メジャーデビューするのは自然な流れ。まだまだ通過点で、これからって感じです。
WWD:自分たちの音楽を“トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル”と言っているが、どういったジャンルだと考えている?
常田:さまざまなカルチャーがミックスされている感じですね。トーキョーって街もいろいろなカルチャーがミックスされている、そういう都市のサウンドを表現していきたい。ビートはヒップホップとかR&Bとかブラックミュージックがベースになっています。
WWD:曲と詞は常田さんが作っている?
常田:はい。J-POPと向き合いだしたのが、ここ数年なんですが、最近はようやくコツをつかめてきました(笑)。King Gnuってアンダーグラウンドな面もポップな面もあって、どの面を出していくかっていうのは曲によって考えています。
WWD:そういうのを狙ってできるのもある種の才能だと思うが。
常田:俺自身がプロデューサー気質なのもあって、King Gnuをいかにデカくしていくかって考えると、曲もバンド全体も客観的に見られないといけないと思っています。
WWD:今回のアルバム「Sympa」を一言で表現すると?
常田:King Gnuの多様な面が見られるバラエティーに富んだアルバムに仕上がりましたね。それはアルバムだからできる表現で、King Gnuの全体を見せられたと感じています。いろいろなシーンに片足はつっこんできたので、出せる引き出しは多い方だと思う。
WWD:音楽番組「バズリズム02」の企画「今年コレがバズるぞBEST10」で1位に選ばれたが?
常田:放送後、SNSのフォロワー数も一気に増えて、広がっていくのを感じました。まだまだテレビの影響力ってあるなって実感しましたね。
WWD:常田さん自身はクリエイター集団「PERIMETRON(ペリメトロン)」を主宰しているが、それはどういった意図で?
常田:もともと映像も好きだったんですよ。音楽と映像は切り離せないもので、音楽を発信する時には絶対に映像が必要。だからMVも自分たちでちゃんと作った方がいいものができるんじゃないかって思って、クラブで知り合った映像ディレクターとかスタイリストとかを誘って、今は8人になりました。King GnuのMVも制作しているけど、別のアーティストのMVやファッションブランドのPVも作ったりしています。それぞれのクリエイターがいそがしくやっていて、広告の動画を作る時に俺が音楽を担当したりと、案件ごとに関わりかたは違ってきます。
WWD:井口さんが踊っている「It's a small world」のMVも話題になった。
常田:あれは俺が構成の土台を考えた作品なんですが、理が昔ミュージカル部だったと聞いて、じゃあ踊ってみようかって作りました。意外と踊れてビックリしましたけどね(笑)。理は音楽以外にも役者もやっていて、そっちの仕事も今後はもっとやっていくと思います。
音楽“市場”にも“史上”にも残る
バンドになりたい
WWD:これからの目標は?
常田:今回のアルバムを足掛かりに音楽の“市場”にも”史上”にも残れる存在になっていきたいです。
WWD:常田さん自身が影響を受けたミュージシャンは?
常田:レディオヘッド(Radiohead)、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix) 、日本人だと、BLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)、あと井上陽水さん。
WWD:音楽以外では
常田:川久保玲さんは挑戦者って感じでカッコいいなって思います。クリエイティブでありながら、多くの人に受け入れられているのもすごいこと。
WWD:常田さん自身のファッションのこだわりは?
常田:気に入ったら同じものを着続ける(笑)。今日の「チャンピオン(CHAMPION)」のスエットパンツはここ1年くらいずっとはいてます。1つ気に入ったのがあれば、それで足りる。んで、わざわざお店に買い物行くっていうのもほとんどないですね。
WWD:King Gnuはファッションのイメージもあったが?
常田:それは「PERIMETRON」にスタイリストの松田稜平がいるおかげです(笑)。
WWD:最後に常田さん自身の個人的な目標は?
常田:いつまでも納得するものを作り続けたいし、「こいつが作るものは信頼できるな」って思ってもらえる人間にはなりたいですね。