北欧フィンランド発祥のスタートアップイベント「スラッシュ・トウキョウ(Slush Tokyo)2019」が2月22〜23日、東京ビッグサイトで開催される。600社以上のスタートアップ企業が参加し、世界80カ国から7000人の来場を見込む。
「スラッシュ」はもともと2008年にフィンランドで始まったスタートアップ企業の祭典で、現在は世界4都市に広がっているが、最大の特徴は学生主体の一般社団法人によって運営されていること。5年目を迎える東京での「スラッシュ」はどんなチームメンバーによって運営されているのか。18年に就任したばかりの古川遥夏スラッシュ・トウキョウ最高経営責任者(CEO)を筆頭に、平均年齢22.2歳という同社の若手コアメンバーに話を聞いた。
WWD:「スラッシュ」とはズバリどんなイベントなのでしょうか。
柿嶋夏海COO(以下、柿嶋):よく“エコシステムビルダー”と言われるのですが、出会った人々がここを出て事業をつくってゆく選手村のような場所だと思います。スタートアップのイベントって招待制がほとんどなのですが、「スラッシュ・トウキョウ」は基本的にオープンな場所なので、誰もが気軽にスタートアップシーンを体感できる場所になっています。
古川遥夏CEO(以下、古川):前任のCEOが使っていた“メンタルジム”という表現がぴったりだと思います。これまで当たり前だと思ってきた概念を取っ払う場所。経験がなくても挑戦していいんだよという空気感があって、新しいマインドセットを作る場所になるはずです。意図的にカオス感を作っているんですが、普段出会わないような業種・国の人々もここではごちゃ混ぜになるんです。
チャン・ジョレル投資家担当(以下、ジョレル):なんとなく若い人ばかりが集まるイメージがありますが、資金調達を目指す起業家と投資家が出会うビジネスの場であることは強調したいですね。
タノムヴァジャムン・ナッタナン=チーフ・キュレーター(以下、ナッタナン):私は2016年に学生として参加したのですが、当時はエンジニアを目指して日本へ来た頃で、将来に対する悩みを抱えていたんです。でも、ここでいろんな世代の人に出会えて。私にとっては“夢を実行する場所”だと思います。私はステージのプログラム担当をしていますが、そこでも夢を追っている人に登壇してもらいたいなと意識しています。
WWD:もともとヘルシンキで始まったイベントですが、今は世界4都市で開始されています。それぞれの関係性は?
古川:ヘルシンキではもう10年が経ちました。その後、5年前に東京ができて、上海とシンガポールが3年目。でも、どこが本国という概念はなく、みな並列です。昨年6月にはヘルシンキに全都市のコアメンバーが集まって、ワークショップをやりました。わざわざ会って仲良くなるのは共通したカルチャーを作るためです。
柿嶋:スタイルは共通しているけれど、お互いに何かを強制し合うことはないんです。そもそも時期が異なるので、みんなが各国へ行って、学び合うみたいな。
WWD:開始から5年を経て、イベントの認知度は日本でも高まってきたと感じる?
古川:学生のリクルートも兼ねて学園祭などによく行くんですが、ロゴの入ったTシャツを着ていると「ボランティアに参加したことがあります」とか「友だちから聞いたことがあります」などと声をかけてもらえることも。起業精神がある一部のコミュニティーに限られてはいますが、認知度は高まっています。
WWD:どんな来場者がいる?
古川:起業家や投資家、メディア、協力企業、学生が主な来場者です。具体的にはテクノロジーや起業に興味がある人が多いですね。企業で新たなテクノロジーを探している方やただ情報収集に来る方もいて、とにかく誰もが新しいアイデアや人との出会いを求めているんです。
ジョレル:ぼくは投資家担当として、海外の投資家ともよく話しますが、彼らは日本にどんな会社があるのか知らないんです。だから日本と海外をつなぐ窓口としての機能もあると感じています。
柿嶋:企業が市町村とコラボをしたり、行政の方も年々増えていますよ。
WWD:登壇者や出展企業はどのような基準で探すのですか。
ジョレル:起業を志す人が多く集まるので、失敗しても大丈夫だったとか、とりあえず起業してみたとか、そういうリアルな経験談こそニーズがあると思います。
柿嶋:今回Sansanの寺田(親弘)社長に登壇していただくのですが、話す内容について「聴いた人がアクションを起こせるようなアドバイスをしてほしい」とお願いしたら「ぼくもまだまだアクションし続けているから、アドバイスなんてできない。今やっていることをリアルにシェアします」と。感動しました。
WWD:スラッシュ・トウキョウ最大の特徴は平均年齢22歳という若いチームによって運営される一般社団法人ということだと思います。
古川:毎年約半数のメンバーが入れ替わります。別に強制しているわけではないのですが、平均3年くらいでみんなやめていくんです。ここは永久にいられる場所ではなくて、新陳代謝を活発にすることで、つねに進化できる組織でありたいと思っています。実際に5年前の創業メンバーはすでに誰もいません。もちろん、いまだにアドバイスをもらうなど、深い関わりはありますが。
WWD:スラッシュ・トウキョウに入るメンバーに共通点はありますか?
柿嶋:純粋に「スラッシュ」が好きかどうか、そして、カルチャーにフィットするかです。なんとなく今年はキャラの強い人が多くなるように意識しました。
WWD:運営メンバーは学生に限っているわけではない?
古川:コアメンバーには社会人もいますよ。ただ一般社団法人という性質上ボランティアが圧倒的に多いので、学生との相性がいいんです。
WWD:イベント運営のボランティアを含め数百人規模の人手が必要なわけですが、どうやって集めるのでしょうか。
古川:通年企画を話し合うコアメンバーが15人ほどいて、イベントの半年前から彼らを中心にボランティアをまとめるチームごとのチームリーダーを決めていきます。そのチーム内で、同時にチームに所属する学生のリクルートをしたり、経験者からの紹介や口コミで来てくれる子もたくさんいますね。ボランティアには国内外を問わず、あらゆる人たちが集まります。今年もヘルシンキから学生が来てくれたり、昨年はベトナムからまとめて50人が来ました。
WWD:これだけ多様な若者が集まる組織なので、企業からの相談やジョブハントもあるのでは?
柿嶋:ここにいる人々は日々いろんな企業の人に会うことで、企業との相性が見えることも多く、そのままプロジェクトに参加したり、働くことになった事例もあります。ボランティアが会場で出会ったスタートアップで働くケースも多く、新しい就活スタイルになっているという側面もありますね。
古川:そもそも、今の就活という道しかないと思っている日本の状況が怖くて。もちろん納得している人はいいんですが、納得できないまま進むくらいなら自分の道を作ればよくって、それをできるのが「スラッシュ」なんです。もちろん、起業家精神を応援していますが、起業を強要しているわけではなくて。いろんな話を聞いて、吸収して、応用することができるはずだと思うんです。違和感のあるまましょうがないと思って生きている人を減らしたいんです。
WWD:最後に「スラッシュ・トウキョウ 2019」の見どころを教えてください。
柿嶋:今回から(CEOが変わって)新しい組織になったことは大きくて。なんの実績もない自分たちが組織を回すという経験ができたことももちろんうれしいですが、これまで「スラッシュ」でできなかったようなものを作りたいと思います。新しいプロジェクトもローンチ予定なので、そんな空気感を当日感じてほしいなと。
古川:柿嶋も言ったように、今年は一番「スラッシュ」の変化を感じられるはず。背景には日本自体が変わってきたという事実もあります。ただ、われわれは変化し続けるので、まだまだ未完成な部分もあります。ある意味余白というか、未完成な部分も残すようにしていて、毎年その違いを感じとってもらえるとうれしいですね。今年は投資家向けではない顧客を獲得するためのピッチコンテストなど、新しいプログラムも増やすので、これから育っていく企画の種がたくさんあるということも感じてもらいたいです。
ナッタナン:みんな異なる経験を持っているはずなので、とにかくたくさんの人と出会ってほしいです。来場する方々も、ぜひ「スラッシュ」と一緒に未来をつくってほしいです。