デサントは7日、筆頭株主の伊藤忠商事が仕掛けたTOB(株式の公開買い付け)に反対する意見表明を発表した。「強圧的な手法で支配権を取得し、伊藤忠グループの利益を優先した経営がなされる危険がある」と強い表現で伊藤忠を非難した。伊藤忠が1月31日にTOBに至る根拠として上げた経営上の複数の争点についても、事実と異なるとして真っ向から反論。数年前まで蜜月と言われた両社が、日本では珍しい敵対的TOBで全面対決することが確実になった。
7日午後、デサント大阪本社で辻本謙一・取締役常務執行役員が報道陣の取材に応じた。「伊藤忠は大株主であり、製品調達やブランド契約などのビジネスパートナーでもある。長い歴史の中で密接な関係を築いてきた」と話す一方で、「(大株主とビジネスパートナーという2つの立場によって)利益相反が生じることもこの10年で顕在化してきた」「伊藤忠の発表は事実と異なる点が多い」と述べた。
辻本取締役によると、良好な関係にほころびが生じたのは、09年に伊藤忠がデサントの株式の持分比率を19.2%から25.2%に買い増しし、11年に伊藤忠社内でデサントへの納入額を年間150億円にする目標値が設定された頃からだった。
11年に伊藤忠出身の中西悦朗・社長(当時)を通じて、目標値達成のため、既存の取引先との信頼関係を毀損する要請が頻繁に行われるようになった。デサントが直接取引を行なっている企業の間に伊藤忠が入って、伝票上、伊藤忠が当該取引先から仕入れ、デサントに販売する形態にする「通し」。あるいは他の商社を通じて行なっている仕入取引を強引に伊藤忠に変える「付け替え」というやり方だという。
13年2月に中西氏を退任させ、創業家の石本雅敏氏を社長に昇格させたトップ交代劇も「公正公平な取引関係を取り戻すため、経営体制の見直し、特に社長交代が必要と考え、1ヶ月前に伊藤忠側に知らせた上で、取締役会で決議した」と正当性を訴える。その上で「TOBが成立すれば伊藤忠の利益を優先した経営がなされ、デサントの企業価値が毀損する可能性が高い」と主張する。
伊藤忠が問題視する利益の韓国偏重と、日本事業が実態として営業赤字に近い状態という推定についても反論する。日本事業は事業効率の改善が進んでおり、分社化したデサントジャパンの18年3月期は約10億円の最終黒字を計上したという。中国事業も19年3月期は売上高260億円の見通しであり、石本体制発足前の13年3月期に比べて約4.1倍になっており、成長が遅いという批判は当たらないと見る。
伊藤忠がTOB後の経営戦略案として掲げる日本事業の立て直しや海外事業の強化についての具体的計画についても「いずれも当社がすでに実施済み」「効果が不透明な施策」と退けた。
今回、デサントは新しい取締役会の構成を提案した。現状は10人の取締役会で、デサント6人、伊藤忠2人、社外2人の構成をとっている。先日、伊藤忠が出した案は6人の取締役会で、デサント2人、伊藤忠2人、社外2人というものだった。これに対してデサントは5人の取締役会で、デサント1人、社外4人の案を出した。人数を減らした上で、社外取締役の割合を増やし、「先進的かつ透明性のあるガバナンス(企業統治)体制」(同社)に移行するという。