ファッション

バックステージでクリス・ヴァン・アッシュに直撃 新生「ベルルッティ」が示したエレガンスの心髄

 124年の歴史を誇る「ベルルッティ(BERLUTI)」は、清く正しく美しいブランドだ。シューズ専門ブランドとして創業して以降、脈々と受け継がれてきたエレガンスは、昨年4月にクリエイティブ・ディレクターに就任したクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)によって継承され、新しい顔を見せる。同氏が初めて手掛けた2019年春夏のカプセルコレクションに続き、19-20年秋冬シーズンはランウエイショーを開催。パリ・メンズ・ファッション・ウィーク4日目の1月18日、オペラ座ガルニエ宮のエントランスを舞台に49ルックを披露した。

 ショー前、バックステージでのクリスはスタッフやジャーナリストと談笑しながら終始リラックスしていた。正直、これまでのバックステージ取材ではスタッフがせわしなく走り回っていたり、怒号が飛び交ったりする現場を見たこともある。しかし「ベルルッティ」では、バックステージからもエレガンスが感じられたほどだ。前日のプレス担当者からの連絡に始まり、当日は現場のスタッフやセキュリティーの対応も申し分ないほど紳士的。これまでで最もスムーズなバックステージ取材だったことも特筆しておきたい。大掛かりなショーの前でも余裕があり、乱れることなく整然とした様子を見ていると、「ベルルッティ」のエレガンスとは、スタイルやアティチュードだけでなく、内にある“清く正しく美しい”DNAから香り立つものではないかと感じる。ランウエイに起用されたモデルのレフも「雰囲気や段取りのよさ、ロケーション、全てにおいて今まで一番いいショーだった」とフィナーレ直後に口にするほどだった。

 肝心なコレクションはというと、いい意味で期待を裏切る内容だった。筆者と同じくバックステージで取材撮影を行っていた映像作家のロイック・プリジャン(Loic Prigent)は「『ベルルッティ』の洋服のイメージは強くないにもかかわらず、一瞬で『ベルルッティ』らしい洋服だと感じさせる、妙に説得力のあるコレクションだった。『ベルルッティ』のプレタポルテの歴史は浅いため『ディオール オム(DIOR HOMME)』在籍時よりも自由にデザインできる分、クリスの色が強くなり過ぎるのではないかと彼が手掛けた初のキャンペーンを見た時は思ったが、僕が思うよりも彼はずっと賢明だった」とコメント。「ファッションネットワーク(Fashion Network)」のジャーナリスト、ゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)は「クラシックなテーラリングを軸に、尊厳と大胆を融合させた見事な芸術作品」と称賛した。

 ショーが始まると、クリスはモデル一人一人に笑顔で言葉を掛け、背中をさすりながらキャットウオークへと送り出した。全ルックが無事に登場し終わると、会場やバックステージからは拍手が響き渡る。クリスはフィナーレの様子をスクリーンで確認し、感極まったのか手で目頭を押さえながら溢れる涙をこらえていた。ショー前のリラックスムードからは想像できなかったが、「ディオール オム(DIOR HOMME)」や自身のブランドとは違う責任感や重圧の重さを、その涙が物語っていた。ショー前のクリスに、コレクション制作の過程やブランドの今後について聞いた。

ーアッシュによる新生「ベルルッティ」の概念とは?

クリス・ヴァン・アッシュ「ベルルッティ」クリエイティブ・ディレクター(以下、クリス):究極のラグジュアリー。「ベルルッティ」はLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY - LOUIS VUITTON)の中で、メンズだけに100%を捧げる最もラグジュアリーなブランドだ。

ーあなたにとって、ラグジュアリーとは?

クリス:タイムレスで、長持ちすること。しかし、いつの時代も「ベルルッティ」のシューズはそれだけではなく、人の目を引くファッション性に長けた魅力を宿してきた。ファッションは”流行”であり常に変化し続けるが、ラグジュアリーとファッションは決して正反対ではないと確信しているし、それを反抗的に示していく挑戦が好きだ。

ーコレクション制作において、1895年のアーカイブにまで立ち返った?

クリス:シューズや小物はアーカイブを参考にし、資料のページをめくるだけでも相当な時間を要した。一方で「ベルルッティ」の紳士服の歴史は6年ほどしかない。そのわずかな遺産が私に大きな自由を与え、素晴らしいプレタポルテを生み出すことができた。

ープレタポルテの歴史が浅くルールが少ないことは、コレクション制作にどう影響した?

クリス:コレクションのイメージを具体化するのは、難しいことではなかった。優秀なチームとともに制作は順調に進んだが、心髄となるテーマがなかなか定まらなかった。そんな時、イタリアのフェラーラにある「ベルルッティ」の工場で、職人たちが靴のムラ染め“パティーヌ”を手作業で行う大理石の古いテーブルに魅了されたんだ。深みのある白い大理石に色とりどりの磨き粉の染みが付いていて、それがヒントになった。すぐにテーブルを撮影し、写真に一切のリタッチを施すことなく、コートやシャツ、バッグなどにプリントした。歴史を刻んできたテーブルの染みが最高にエレガントで、新生「ベルルッティ」を示すキールックになった。

ーショーに幅広い世代の男性モデルと、さらに女性モデルを起用した理由は?

クリス:年齢層や性差に言及するつもりはない。私はただ、精神性や物事のやり方をより活性化させようとしているだけだ。新しく生まれ変わったアイコンシューズの“アレッサンドロ(Alessandro=創業者の名前に由来)”と“アンディ(Andy=アンディ・ウォーホルに由来)”は、フォーマル感を軽くしてよりリラックスしたシューズとなった。父親だけでなく、彼の息子さえも魅了するかもしれない。「ベルルッティ」は、特定の感性を養う全ての人に向けたブランドなのだ。

ー今後「ベルルッティ」を成長させるための計画は?

クリス:ブランドが築き上げてきた遺産をこれからも継承していきたい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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