歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひも解けば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができる。この連載では1947年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつひも解いてゆく。奥が深いファッションの旅へようこそ!
連載2回目で取り上げるのは、“サドルバッグ”だ。2000年春夏コレクションで当時のアーティスティック・ディレクター、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が発表するとすぐにヒットした。支持したのはビヨンセ(Beyonce)ら活動的で自信に満ちた女性たち。TVドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」でもサラ・ジェシカ・パーカー(Sarah Jessica Parker)がポップな“サドルバッグ”を持ったことで、都会女性の愛用バッグとしてのポジションを獲得した。馬のくらから着想を得た独特の形が特徴で、もし「D」のゴールドのチャームが隠れたとしても一目でそれと分かるインパクトがある。
あれから約20年が経った2018-19年秋冬シーズンに、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)は“サドルバッグ”を復活させた。メゾン史上初の女性アーティスティック・ディレクターであるマリア・グラツィアの功績の一つは歴代デザイナーが残したアーカイブをよみがえらせている点にある。ラグジュアリー・ブランドを任されるデザイナーは往々にして創業デザイナーのアーカイブ以外には触れず、むしろそれを否定することで自身の色を出すものだが、彼女はムッシュ・ディオールだけでなく、ガリアーノ、マルク・ボアン(Marc Bohan)やラフ・シモンズ(Raf Simons)、エディ・スリマン(Hedi Slimane)らの仕事を研究しアップデートしている。70年を超えるブランドの歴史全てを引き継いで見せると言わんばかりの彼女の懐の深さは、今の「ディオール」のパワーにつながっている。
そして、新しい“サドルバッグ”は実用的でそこにも女性の視点を見る。「必要なものを全て携えて運べるように」と、より大きくしたサイズと逆に極力コンパクトにした小さいサイズの2サイズで、ストラップは斜め掛けをすると腰にフィットする仕様になっている。実際、クロスボディーにすると両手がフリーとなり解放的だ。古い価値観から女性たちを解放すべくメッセージを発信し続けているマリア・グラツィアのポリシーがそこには凝縮されている。
そして、マリア・グラツィアに続いて「ディオール」メンズのアーティスティック・ディレクターであるキム・ジョーンズ(Kim Jones)もまた“サドルバッグ”を取り入れた。昨年12月に東京で発表した2019年プレ・フォールで、アーティスト空山基のメタリックな彫像とリンクするメタルの“サドルバッグ”を登場させたことは記憶に新しい。他にもキャンバスのストラップ使いや、ポケットに取り付けて使用するタイプなどカーヴィーで女性的なシルエットを“男の子”顔に変換させるアイデアが豊富で、今の「ディオール」のメンズを象徴するテーラリングとストリートの融合をここにも反映させている。力のあるアイコンは引き継がれ、時代に合わせて進化して行くことがよく分かる“サドルバッグ”のストーリーだ。