まさにアメリカン・ドリーム。「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のランウエイショーは、彼にとっても、ニューヨーカーにとっても、そしてファッション業界人にとっても、夢のようなひと時だった。ショーの終了後、来場者の一人は「まるで天国だ」と呟いた。彼の言葉は、真実だ。ラッフルを幾重にも重ねたドレス、いや、ラッフルだけで作るドレスの数々は夢のようだったし、コマーシャルとは言い難いコレクションが世界で一番商業主義的な街のニューヨークで世界に向けて発信されたというニュースも低調なニューヨーク・ファッション・ウイークにとって新たな可能性を示す時間だった。
ファーストルックのモデルを務めたのは、女優のローワン・ブランチャード(Rowan Blanchard)。その後もご存知ベラ・ハディッド(Bella Hadid)やテイラー・ヒル(Taylor Hill)、往年の赤毛モデルのカレン・エルソン(Karen Elson)日本からはCHIHARUら、著名モデルが続々登場。いずれもオーガンジーをラッフルにしたパーツを繋げ、さまざまに変形させたドレスをまとう。あるドレスは花のようだし、別のドレスは星のよう。また別のドレスは愛らしい球体。七色のドレスは、ダイバーシティー(多様性)への意識が高まる時代とリンクして、非日常のコスチュームでさえ共感できる。そのほかのスタッフも、メイクはパット・マクグラス(PAT McGRATH)、ヘアはグイド・パラウ(Guido Palau)という異例中の異例とも言えるドリームチームだ。
会場は、マディソン街の「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」の旗艦店。マークは姿を現さなかったが、ショーのためにストアを完全クローズするなど、世界的にはほぼ無名のコスチューム・デザイナーに対して異例の協力体制を敷いた。マークが、自らのショップを会場に提供したのは、よくわかる。それは「トモ コイズミ」の作品が、元祖“ファッション・キッズ”のマークにとって、共感できる夢に溢れたものだから。ラッフルで作るマルチカラーのボリュームウエアは、「マーク ジェイコブス」に通じるもの。ピュアに夢を追う「トモ コイズミ」の姿もまた、マークのパーソナリティにどこか通じる。マークは、自身のブランドで販売する自由の女神モチーフのTシャツまで提供。それはラッフルと組み合わされ、この日のニュー・コレクションになった。
ショーの終了後、小泉智貴は、「いつか世界に挑戦したいと思っていた。日本では得られないリアクションを知ることができて嬉しい」語った。たしかに。そのリアクションが、著名スタイリスト、ケイティ・グランド(Katie Grand)を惹きつけ、あまたのトップモデルとアーティスト、そしてマークを動かし、業界の大ベテランたちも新たなチャレンジを楽しんでいるようだった。そしてランウエイショーは、低迷を続け来場者が減り続ける一方のニューヨーク・ファッション・ウイークにおける、1つのビッグニュースに。小泉、来場者、関係者、そしてファッション・ウイークにとって、夢のようなひと時になった。