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ドレイクの発言で深まる「グラミー賞」とヒップホップシーンの溝

 「Hotline Bling」以来、「God's Plan」で2年ぶりに「グラミー賞(Grammy Awards)」を受賞したラッパーのドレイク(Drake)。彼が愛する地元トロントでは、名所CNタワーがトロフィー同様のゴールドカラーにライトアップされるなどハッピームードに包まれていたが、当の本人は心中穏やかではないようだ。

 2018年6月、ドレイクは世界中で大流行した歌に合わせて踊るミーム「In My Feelings Challenge」の元ネタ「In My Feelings」を含むアルバム「Scorpion」をリリース。「Scorpion」はアメリカだけで再生回数が1週間で7億5000万回以上を記録し、18年の作品にもかかわらず、設立から10年が経つ「スポティファイ(Spotify)」において「歴代で最も再生回数の多いアルバム」の7位にランクインし、自身も「2018年に最も再生されたアーティスト」と「歴代で最も再生回数の多いアーティスト」で1位を獲得。さらに「スポティファイ」だけでなく、「アップルミュージック(Apple Music)」でも「2018年に最も再生されたアーティスト」を達成し、「ビルボードホット100(Billboard Hot 100)」ではザ・ビートルズ(The Beatles)が持つ「1年間でトップ10入りした曲数」の11曲を1曲上回り54年ぶりに記録を更新するなど、2018年は“The Year In Drake”と言っても過言ではないほど他を寄せ付けない騎虎の勢いを見せていた。

最優秀ラップ・ソング賞を受賞した「God's Plan」

 「Scorpion」のヒットの甲斐あって、「グラミー賞」では最優秀レコード賞と最優秀アルバム賞の主要2部門を含む7部門にノミネートされ(最多ノミネートはケンドリック・ラマーの8部門)、収録曲「God's Plan」は最優秀ラップ・ソング賞を受賞した。しかし「Scorpion」自体は、大本命と思われていた最優秀ラップアルバム賞にノミネートすらされなかった。

 結果、ドレイクは「グラミー賞」の運営に不信感を抱き、授賞式でのパフォーマンスのオファーを断るだけでなく、受賞後のスピーチで「グラミー賞」の在り方自体に疑問を呈したのだ。

 「『グラミー賞』の歴史の中で、初めて自分がこうありたいと思っていた自分になれたかもしれないと一瞬思えたよ。いい気分だね。いや、何か受賞するなんて思ってもみなかった。(スピーチを)見てくれている音楽をやりたいと思っている子どもたち、そして心からの音楽を作っている仲間たちに向けて、この機会に話したいことがある」。

 「俺たちは、事実に基づかないで誰かの意見に左右される業界にいる。こうして年度の終わりにトロフィーを授与されるのは、正しい決断をしたからとか、NBAのようにゲームに勝ったからじゃないんだ。音楽業界はときとして、俺みたいにカナダから来たハーフの子どもや、ニューヨークに暮らすスペイン人の女の子(カーディー・B)、ヒューストンで暮らす兄弟(トラヴィス・スコット)だったりが言いたいことを理解していないヤツらによってコントロールされている。でも、きみが作った曲を口ずさんでくれるファンや、仕事で一生懸命稼いだ大事な金でチケットを買って、雨の中でも雪の中でもきみのライブに駆けつけてくれるファンがいるなら、こんなトロフィーなんて必要ないんだ。そういうファンがいるならきみはすでに一流の勝者なんだ、約束するよ」。

 しかし、運営側にとってこのドレイクの「ファンがいればトロフィーなんていらない」という主張は心証が悪かったようで、スピーチの途中に「マクドナルド」のCMへと移り、ドレイクのアツい思いはTVの向こう側には届けられなかった。

 今回のドレイクの発言は、今年のチャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)の欠席にも見るように、以前から「グラミー賞」が抱える白人優遇の黒人差別とヒップホップアーティストの受賞の少なさに対する抗議でもあると考えられるが、ほぼ全ての受賞者のスピーチ映像が掲載されている「グラミー賞」のYouTubeアカウントには、現在に至るまでドレイクの映像は投稿されておらず、両者の溝がより深まったように感じられる。

 なお今年の「グラミー賞」は、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)が史上初めてラップ楽曲として最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞する快挙を達成。チャイルディッシュ・ガンビーノ以前にラップ楽曲が主要4部門で受賞したのは、2004年のアウトキャスト(OutKast)の最優秀アルバム賞のみ。

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