山縣良和が手掛ける「リトゥンアフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS)」の2019-20年秋冬展示会場を訪れると、そこにあったのは天井から吊るされた大きな藁人形。黒いチュールドレスが着せ付けられているが、藁にはリフレクター塗料が塗られていて、フラッシュ撮影すると真っ暗な中で妖しくビカッと光る。吊るされた人形をぐるりと取り囲むのは、同じく真っ黒なドレスに身を包んだ人形たち。白骨化したかのようなおどろおどろしい人形もいる。
山縣いわく、インスタレーションのテーマは「魔女裁判」。中世ヨーロッパの魔女裁判は、人間が組織の中の異分子を魔女として裁いたものだが、これは裁く方も裁かれる方も明らかに魔女だ。「今の時代は、あいつは魔女だと言う側も言われる側も、どっちも魔女。立場はすぐに入れ替わる」と山縣。具体的なことは話さないが、昨今の政治への不信、フェイクニュース問題などに対するもやもやとした思いが、こうした表現につながったようだ。
「僕の表現の出発点はいつだってネガティブ」と言う通り、今季も重さを含むテーマだが、山縣のプレゼンテーションのいいところは最終的にどこか明るさやウィットを感じさせる点。「タロットカード占いの“吊るされた男”も、上下逆さまの位置で出るとポジティブな意味になる。それと同じで、吊るし上げられることも考えようによったらポジティブになるんじゃないかと思って」。そう聞いて空間をぐるりと見渡すと、白骨化した魔女たちが花冠をしているなど、ちょっとかわいい。
19-20年秋冬の服は、インスタレーションとは別の部屋に1点ずつハンギングしていた。和紙とオーガンジーをボンディングした生地のボリュームドレス(10万円)や、キルト素材のチャイナジャケット(6万8000円)など、モノトーンでそろえた。買いやすいラインの「リトゥン バイ(WRITTEN BY)」では、刺しゅうTシャツ(5000円)を充実。
引き続き、ファッションデザイナーというよりもアートの道を爆進中。山縣に対して、「なぜもっと貪欲に売ることに執着しないのか」といった声が多かった時期もある。だが、ブランド設立から10年以上に渡ってブレずにこの作風を貫く姿勢が、最近ではちょっと頼もしくもある。