たった1週間で人はここまで人生を変えることができるのだろうか?ニューヨークで自身初のランウエイショーを行った小泉智貴「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」デザイナーは、ショーから6日が経った今も自身の幸運を信じられないようだ。ショーの仕掛け人である人気スタイリスト、ケイティ・グランド(Katie Grand)がジャイルズ・ディーコン(Giles Deacon)のインスタグラムを通して「トモ コイズミ」の作品に出合わければ、2月8日に「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」のマディソン・アベニューの店舗でショーを行うことは夢物語だったであろう。しかし、小泉はこの夢のようなサクセスストーリーを、パット・マクグラス(Pat McGrath)やグイド・パラオ(Guido Palau)、マーク・ジェイコブス、そしてケイティの協力で実現させた。虹色のラッフルを使用したアイキャッチーな彼のコレクションと、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)やドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」にも出演している女優、グェンドリン・クリスティー(Gwendoline Christie)といった話題性のあるキャスティングも一助となり、「トモ コイズミ」のショーは一夜にして世界中のSNSを駆け抜けた。
ショーで発表したコレクションを日本に発送するため、ショーにも協力したファッションサービス・エージェンシーのKCDのオフィスに向かうタクシーの中で小泉は「本当にクレイジーだよ。僕はここに来る前、ショーのことだけを考えていた。ショーの後は美術館に行ったり、買い物をしたり、友達と出掛けたりする時間がもっとあると思ってた」と語る。
ショー後には多くのリテーラーから問い合わせが殺到したため、当初の予定にはなかったが小泉はショールームを開くことを決め、あれこれ忙しくしているうちに、レディ・トゥ・ウエアをスタートする話も出てきた。ロンドンの百貨店リバティ(LIBERTY)やネッタポルテ(NET-A-PORTE)、ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET以下、DSM)の幹部などからアポイントメントを受けたという。
アメリカのショップで彼にコンタクトを取ったのが唯一DSMだけであったのには「少し驚いた」としつつ「でも大丈夫。ハーヴェイ・ニコルズ(HARVEY NICHOLS)やセルフリッジ(SELFRIDGE’S)とかイギリスのリテーラー、それからロシア、香港のジョイス(JOYCE)など、他からたくさん話があった。ジョイスの人とは、香港に別のクライアントの仕事で来月行く予定があるから、そこで話したい。香港が大好きだから、とてもうれしいよ」と話す。レディ・トゥ・ウエアのカプセルコレクションは絶対に実現したいという小泉は、ファーストコレクションはパリで発表するようにアドバイスを受けたという。
また、レディ・トゥ・ウエアのスタート以外にも「とってもいいことが起きた」と明かす。タイのあるソーシャライト兼エディターから、「メットガラ(MET GALA)」で着用するドレスの制作依頼が来たのだという。東京までの14時間のフライトは、ランウエイで発表したものをどう市場向けに落とし込むかを練ったり、「メットガラ」のドレスのデザイン画を描く時間に費やすそうだ。
さらに日本からも応援が届いた。ある日本の繊維企業から、その企業の生地を使わないかとオファーが来た他、政府がバックアップしているスモールビジネスをサポートする日本のエージェンシーとも会う予定だ。「こういうサポートが本当に必要なんだ。もし彼らと何かできたらとてもうれしいよ」。また、友人の協力でブランドのウェブサイトも一新した。
ニューヨークで過ごした11日間を振り返り、「今回の出張と僕と一緒に働いてくれた人たちは、僕の人生、キャリアを変えてくれた」と語る。ニューヨークでのショーは自費でまかなったが、コレクションの輸送費、往復のフライト費、ホテルの10日間の滞在費にかかった分はもう取り返したという。
ショー前はショーが終わったら飲みに行きたいと話していたが、ニューヨークで過ごす最後の夜は、めまぐるしく過ぎた11日間で唯一休息の時間になりそうだ。「たぶんホテルで何もしないかも。ディナーでは友だちと会うつもりだけど、午前10時の便で帰る予定だから飲まないと思う」と語った。