ファッション

グッチCEO、NYで講義をするも“黒人差別”騒動の釈明に終始 多様性とインクルージョン推進プログラムを始動

 グッチ(GUCCI)のマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼最高経営責任者(CEO)は2月13日、米パーソンズ美術大学(PARSONS SCHOOL OF DESIGN)で特別講義を行った。本来はグッチでの経験やキャリアについて話すはずだったが、ECサイトで販売していたバラクラバ帽風のトップスが黒人差別だと物議を醸した件についての釈明に終始することとなった。

 講義の前にはジョエル・タワーズ(Joel Towers)=パーソンズ美術大学学長による登壇者の紹介があり、通常はその功績が語られるが、今回は「『グッチ』はその商業的な成功や世界中のコミュニティーへの貢献で知られている、真の意味でグローバルなブランドだ。だからこそ余計に、ブラックフェイス(黒人以外の役者が黒人の役を演じるために施す化粧)を想起させる商品を販売してしまったことは人々を大きく落胆させた」と騒動に触れる異例の事態となった。

 登壇したビッザーリCEOは、「18年2月のショーであの商品を発表したときには何も起きなかったので、問題について初めて報告を受けた際は、何のことだか分らなかった。今回の件はわれわれの無知によるものであり、深くお詫び申し上げる。断じて意図的なものではなく、間違いを犯してしまった。われわれはイタリア人で、全ての文化や価値観について分かるわけではない。文化的な差異について不勉強だった」と謝罪した。「あのセーターは『グッチ』のカルチャーに反するもので、間違いを犯したと分かった瞬間に販売を中止した。今後、仮に売り上げが減ったとしても、それは問題ではない。カルチャーに反したものを売ってしまったことが問題なのだ」とし、再発防止に大切なのは教育だと続けた。「ミスをしたと互いを責めるのではなく、改善するにはどうすればいいのかをオープンに話し合い、共に学んでいきたい。異なるカルチャーに触れることも重要だ。私はさまざまなことを知っていると思っていたが、学ぶべきことはまだたくさんある。今回の件は、ダイバーシティーについての理解を深め、インクルーシブであることをさらに推進する機会となった」。

 具体策として、同社はニューヨーク、ナイロビ、東京、北京、ソウルなどの主要都市で奨学金プログラムを実施し、一年後に参加者を「グッチ」で採用することで社内の多様性を推進する。また、異なる文化的背景を持つデザイナーを交換プログラムの一環として採用するという。「イタリアで多様なカルチャーを持つ人材を探すことは難しいので、交換プログラムを実施することにした」とビッザーリCEOは述べた。

 質疑応答で「グッチ」の経営陣における多様性について聞かれた同氏は、「内訳はすぐには思い出せないが、特に多様ではないと思う。これは15年に現職に就任した際、当時の役員をそのまま全員残したからでもある。だが、多様性を推進するために誰かをクビにして、そこに違う文化的背景を持つ役員を入れるべきだろうか?私はそうは思わない。そうではなく、委員会やミーティングなどを設定して、異なる年齢や文化の人材と共にオープンな議論を重ねていくべきだと考えている」と語った。しかし、「プラダ(PRADA)」や「H&M」と同様に、経営陣における多様性の欠如が今回のような“無神経な”商品の発売につながったのではないかとする批評家は多い。

 講義の大半は騒動に関する釈明だったが、「グッチ」の経営に関する話題もあった。ビッザーリCEOの就任当時、同ブランドは経営難に陥っており、従業員4000人を解雇するべきだと生産マネジャーが進言してきたという。だが、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)クリエイティブ・ディレクターの“魔法”が効いてくれば業績は持ち直すと確信して解雇はせず、読み通りに業績が回復したときにはさらに数千人を雇用したと話した。その頃の経営スタイルについては“独裁者タイプ”だったとし、「会社を復活させようというときに、全員の同意を待っている時間はない。私が決め、みんなが従うという形のほうがいい。それに、失敗しても私一人が責任を負えば済む」と語ったが、ミケーレ=クリエイティブ・ディレクターとは綿密に打ち合わせをしていたと明かした。それが奏功し、「グッチ」がミレニアル世代にも大人気となった秘訣については、「正直に言うと、よくわからない」と認めて笑顔を見せた。

 なお、ミケーレ=クリエイティブ・ディレクターは12日、1万8000人の全社員に向けて、「あのセーターは、アーティストの故リー・バウリー(Leigh Bowery)へのオマージュだった。人種差別的なイメージを呼び起こしてしまったことに大きな悲しみを感じている」と本来の意図を説明するメールを送信している。

 言葉だけではなく、「グッチ」は迅速に行動している。米滞在中、ビッザーリCEOは同社と協業しているニューヨーク・ハーレムの伝説的テーラーであるダッパー・ダン(Dapper Dan)ことダニエル・デイ(Daniel Day)などのアフリカ系アメリカ人コミュニティーのリーダーたちと話し合った。そして15日、同社は多様性に関して以下の4つの取り組みを発表した。

1) グッチ アメリカに“多様性とインクルージョン担当グローバル・ディレクター”という執行役員職を新たに設け、各地域に“多様性とインクルージョン担当ディレクター”を置く。彼らは多様な人材の採用を促進する他、社員の教育プログラム開発などを行う。
2) ビッザーリCEOが講義中に話したとおり、世界中のデザイン学校と提携した奨学金プログラムを実施する。またローマにある「グッチ」のデザインオフィスで、多様な背景を持つデザイナーを直ちに5人採用する。
3) 全社員を対象とした多様性に関する教育プログラムを5~6月に実施。
4) 全社的な交換プログラムの実施。選ばれた社員は、イタリア本社でメンターと共に働くことができる。

 ビッザーリCEOはこれらについて、「一度限りの施策ではない。同じ過ちを犯さないよう、全社をあげて長期的に取り組んでいく」と語った。

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